漱石全集
岩波書店の菊版『漱石全集 全16巻』は昭和40年(1965年)から配本が始まった。私は翌年の春に上京後、これを集め始めた。第一巻『吾輩は猫である』はどこの書店でも売り切れで、探し回った。神保町の古書店でも見つけられなかった。有楽町ビルの1階の書店「信山社」にあったよ、と友人が教えてくれたので、飛んで行ったが既に売れた後だった。その後苦労して全16巻を揃えたが、京都へ転居の折、それを含む蔵書のほとんどを売ってしまった。
一昨年2017年の京都百万遍の知恩寺古書市で、同じく岩波書店の『芥川龍之介全集』が全巻揃い6000円と言う腰を抜かすほどの廉価であった。あの『漱石全集』16巻揃いもその横に出ていたが、それよりも安い売価に絶句したのであった。 (2019.8.30)
文豪の文学全集、いまの相場ではそんなものらしいですよ。
思うに、文学全集には、その「中身」と「インテリア」として価値があります。
近年、文庫化と青空文庫により、その「中身」の価値・希少性は激減。なにしろ、ネット環境があれば、どこでも無料で読めてしまうのですから。紙で読みたい人にとっても、かさばらず、最近の研究成果も反映される文庫の方が便利なのだと思います。
また、インテリアとしても、こういう文豪の文学全集はいまはちょっとスノッブに映るのかもしれません。そもそも、日本の住宅環境では、このインテリアを飾るスペースを確保するのが難しい。
かくいうわたしも、日常的にはちくま文庫で読んでいます。
岩波は、いまは新しい全集が出ています。『定本 漱石全集』ですか。旧『漱石全集』全16巻が安価だったのは、そのせいでしょう。
電子書籍が流行し、古本市場がこんな状態のいま、
最近わたしが思うのは、本を買うのは、読むことと同じ「体験」であること。
過去に本を探して神保町を歩き回り、そしてその数十年後にその下落に愕然としたことは、他の誰も得られない体験です。そんなの、電子書籍時代では不可能なことじゃないですか。