方言は本当に興味深い。
標準語圏の埼玉で育ったわたしにとって、大学から過ごした京都にはカルチャーショックを受けました。でも、関西は地方都市の中でも最大手です。異文化といってもたかが知れてる。移住する前からよく知っているものもたくさんありました。
それに比べて、地方から京都にやって来た友人の話はまさに十人十色で、「それ、外国語?」としか言えないような単語も耳にしました。
今回はそんな話です。
おもやい
「おもやい」という言葉があります。「1台の自転車を兄弟でおもやいにする」のように使います。私が小学校低学年の頃、父の稼ぎが少なかったのか、「このクレヨンはお姉さんとおもやいですよ」と言った母の顔が忘れられない。
「おもやい」には「共有」の意味だけでなく「仲良く」の意味も入っているのか。「共有する」 は大人の言葉。「いっしょに使う」には「同時に」の意味も入っています。クレヨンは同時に使えますが、自転車は兄弟姉妹で譲り合わなければけんかになってしまいます。
他国にもあるはずの習慣なのでアンテナを伸ばしていたら、ありました。農村から出稼ぎにきた17歳の少年は、宅配の仕事に使っていた自転車を盗まれる。その自転車を同年代の高校生が中古で購入したことが判明し、二人は言い合いの末、「交互に」自転車を使うことにした。(映画『北京の自転車』の解説。京都新聞2012.2.14)
「もやい」を引くと
『現代新国語辞典』には「催合い」とあります。
『岩波』は「舫い」あるいは「催合」。
『新明解』は「もやい」。「催合」と書くのは、義訓。(注:「義訓」を引くと、字の中で、「借字」よりは当て字感の薄いもの。」
『明鏡』は「催合い,最合い」共同で一つの事を行うこと。また、共同で一つの物を所有すること。「この漬物は、もやいで頂きましょう」
波正太郎の梅安シリーズにも『梅安最合傘』がありました。「もやいがさ」とルビが振ってあります。「相合傘」とは違います。
秩父地方では昔は農家数軒でいっしょに行う田植えなどをした。それを「もやい仕事」という、と秩父の方に教えてもらいました。
毛利甚八作・魚戸おさむ画コミックの『家栽の人』には、九州から居候にやって来た友人が「しばらくやっかいになるばい」と言って荷物をドサッとおろして言います。「机はおもやいにすればよかたいね。」
ただし、枠外に「半分」と注がありますが、私の語感では、半分ずつ使うのではなく、共同の物として、空いていれば使う、空いてなければ二人で一緒に使う、ということです。
この「おもやい」は思いのほか広い地域で使われているようです。「もったいない」と同じくらい私の好きな言葉です。
東日本被災地 義捐金 心をおもやいにしよう 鴻南16会
と書いた募金箱がカウンターに置いてありました。いいですね、その土地の言葉はいつでも温かい。
野宿者支援と生活困難者を支えるNPO に『もやい』という組織があります。よいネーミングだと思いませんか。
家栽の人 コミック 全15巻完結セット (ビッグコミックス)
- 作者: 毛利甚八
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/04/01
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (1件) を見る
「おもやい」という言葉には、「共有」「半分」の意味に加えて、「なかよく、争わずに使う」「一緒にいる相手のことを考えて使う」という意味が込められているように思います。「共有」「半分」の幼児語「わけわけ」よりも温かい言葉ですね。