憧れる
「憧れる」という言葉の使い方の代表例は
小さい頃からスチュワーデスに憧れていました。
であろう。ところが次のような言い方がある。
「旅に出ます」書き置き机の上
ハーモニカ ポケットに少しの小銭
さよならの意味さえも知らないで
ああ砕かれて手の平から落ちた
あれはおれ16遠い空を憧れてた 路地裏で
(浜田省吾『路地裏の少年』)
「…を憧れる」とはあまり言わないのではないか。けれども、ここが「遠い空に憧れてた」ではインパクトが弱い。「に憧れる」が普通の言い方かも知れないが、ここはどうしても「を」でなくてはいけない。
次も「を」が毅然とした透明感をうたっている。
廃墟はただ佇むことを憧れる
若い太陽の下に
意味もなく佇むためにのみ佇むことを
この「に」と「を」について、『新明解国語辞典7版』は次のように説明している。
「~に」は対象とする人やものへの限りない接近を含意し、
演歌歌手にあこがれて上京する。
「~を」は対象とする世界への到達を含意する傾向がある。
演歌歌手をあこがれて上京する。
まぎらわしいことに『明鏡国語辞典2版』は
もと「異国情緒を憧れる」のように他動詞にも使った。
とある。
だが、「演歌歌手にあこがれて上京したが、結局、なれなかった。」の「に」も「到達」の意味だろう。使うときには「に」にするか「を」にするか、すこし思いめぐらすのが良いようだ。