「憧れる」はどう使う?

憧れる

 「憧れる」という言葉の使い方の代表例は

 

 小さい頃からスチュワーデスに憧れていました。

 

 であろう。ところが次のような言い方がある。

 

  「旅に出ます」書き置き机の上

  ハーモニカ ポケットに少しの小銭 

  さよならの意味さえも知らないで

  ああ砕かれて手の平から落ちた

  あれはおれ16遠い空を憧れてた 路地裏で

            (浜田省吾『路地裏の少年』)

路地裏の少年/愛のかけひき

路地裏の少年/愛のかけひき

 

 

「…を憧れる」とはあまり言わないのではないか。けれども、ここが「遠い空に憧れてた」ではインパクトが弱い。「に憧れる」が普通の言い方かも知れないが、ここはどうしても「を」でなくてはいけない。

 

 次も「を」が毅然とした透明感をうたっている。

 

  廃墟はただ佇むことを憧れる

  若い太陽の下に

  意味もなく佇むためにのみ佇むことを

        (谷川俊太郎『六十二のソネット12 廃墟』 

 

六十二のソネット (講談社プラスアルファ文庫)

六十二のソネット (講談社プラスアルファ文庫)

 

 

この「に」と「を」について、『新明解国語辞典7版』は次のように説明している。

 

 「~に」は対象とする人やものへの限りない接近を含意し、

    演歌歌手にあこがれて上京する。

 「~を」は対象とする世界への到達を含意する傾向がある。

    演歌歌手をあこがれて上京する。

 

新明解国語辞典 第七版 特装青版

新明解国語辞典 第七版 特装青版

 

 

まぎらわしいことに『明鏡国語辞典2版』は

 

もと「異国情緒を憧れる」のように他動詞にも使った。

 

とある。

 

明鏡国語辞典 第二版

明鏡国語辞典 第二版

 

 

 だが、「演歌歌手にあこがれて上京したが、結局、なれなかった。」の「に」も「到達」の意味だろう。使うときには「に」にするか「を」にするか、すこし思いめぐらすのが良いようだ。