ただ

うんうん、だから for free なんて言い方もあるんですよね。 

 

ただ

ただほど高いものはない、とはよく聞く言葉だが、「ただで」を「ロハで」とも言う。これは漢字「只」を分解してカタカナで読んだもの。もうとっくに死語となったと思っていたら、映画『ニューヨークのゴースト(Ghost)』の字幕に現れた。幼い頃好きだった女の子に再会したようで、ちょとなつかしかった。

英語では free あるいは for nothing という。この for は辞典では「交換・代価」として出ている。nothingは「無、ゼロ」だから「無と交換で」が原意。とすると「10ドルで」は for ten dollars となる。

 

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大学時代の哲学の授業で、原典をドイツ語で読んでいた時の話です。

他の先生の話では、その先生――S先生とします――は若くから語学の天才として名を馳せていたそうです。わたしが訳す番になり、たどたどしくもなんとか訳し終えたとき、S先生は言いました。

――語学を早く習得したいのなら、前置詞に強くなることだよ。

「早く習得したいのなら」のところは、「強くなりたいのなら」だったかもしれません。中高と英語を学び、大学に入ってドイツ語、フランス語、ラテン語ギリシア語を学ぶ必要に迫られ、日々四苦八苦していたわたしにとって、この言葉は深く納得できるものでした。前置詞にはその言語の性格が色濃く表れます。いくつもの種類があり、複雑に語にくっつき、さらに、文の中の位置によってまで意味を指示するドイツ語。種類は少なく、リエゾンしてもはや語の響きの中に溶け込んでしまうフランス語。日本語に関して言うと――これは前置詞ではなく助詞となると思いますが――種類が多く、細かく繊細なニュアンスを使い分けることができるものの、順序にはそれほどこだわらない、という実用的な面もある。しかし、複雑すぎるがゆえに逆に意味不明瞭になるなど、使いこなすのが大変、といったところでしょうか。

 

そうそう、引用の「交換の for」ですが、for nothing は「前置詞+名詞」で納得できますが、同様の意味の for free は「前置詞+形容詞」で、いまひとつ納得できなかったことを思い出しました。でもこれも、この for が「交換の for」であることを考えると受け入れやすくなります。たぶん、for nothing からの類推で残っちゃったんでしょうね。