『わたしの外国語学習法』、ロンブ・カトー(米原万里訳)、ちくま学芸文庫、1972(一九八一年)

語学学習者を勇気付ける本。
特に、ある程度年をとってから複数の言語を学ぼうとする人のための本。
語学学習には論理的思考に基づく学習方法が効果的であり、
論理的思考は幼いときよりもむしろ年をとったときの方が上手であることを主題に、
語学学習において加齢が障碍とはならないことを説く。
「自分の興味のある本を読め」など、米原万里の本と同じくらい、同意するところが非常に多い本だった。
おぼえておきたいことを引いておく。

専門的知識、これは外国語への扉を開く鍵なのです。

…一体どんな本を読んだらいいのか、という問題が残っています。
答えは簡単。私たちが興味を惹かれるものを読めばいいのです。
《Interesse ist sträker, als Liebe》(興味は愛より強し)とドイツの諺も言っているではありませんか。
実際、興味というものは、人類にとって最悪の敵の一つである退屈(飽き)を克服する能力を持ち合わせているのです。

さて、袖まくりをしていざ外国語学習に取り組もうと張り切っておられる方は、
一つの言語でなく、最低二つの言語を相手にしなければならないことを肝に銘じておくべきでしょう。
すなわち、書き言葉と話し言葉の両方です。

第一に皆さんに申し上げたいことは、決して、一時たりとも辞書を手放すなということです。
そして第二に、常に手放せるようでなくてはダメだ、ということです。

なぜならば、学習の初段階(あるいは予備段階といったほうがよいでしょうか)では、
辞書は大いに思考力を刺激するのです。
ところが、ある程度まで行くと、今度は逆の作用を及ぼし始めるのです。

良い訳とは、現発言(文)に可能な限り相応していて、
同時にあたかももともと訳語で書かれているかのような印象を生むものである。
→ 良い訳とは、原文がめざしたのと同じ連想を生み出すものである。

《言語屋(リングイスト)》にとって必要なのは、次のたった三つの技能です。
即ち、優れた語彙暗記力、さまざまな音(言語上の音に限らず)を模倣する能力、
および外国語のルールだけでなく現実のさまざまな現象をひとつにつなぎ合わせることを助ける論理的思考力です。

(外国語を学ぶ際の10教訓・抜粋)
1 外国語は毎日学習すること。
2 学習意欲があまりにも早く減退するような場合は、自分を鞭打ったりしないこと。
3 何事も、文脈(context)から引き離して覚えないこと。
4 多くの場合に利用できる成句を順不同で書き出して覚えてしまうこと。
5 可能な限りあらゆる物事を頭の中で訳してみること。
6 独習の場合、あらかじめ正しいと分かっているものだけを覚えること。
7 成句や熟語的表現は、1〜3人称、単数で書き出し、覚えること。
8 外国語は、あらゆるメディアから吸収すること。
9 謝ることを恐れず、それを直してもらうよう頼むこと。
10 どんなことがあっても自分は目標を達成できるのだ、
  自分は強力な意志力と、類まれなる語学的才能を持ち合わせているのだと、固く確信すること。

なるべく一カ国辞典を使うこと。英語ならOxford, ドイツ語ならDuden, フランス語ならLarousseなど。

難しい言語とは、文法ルールの適応半径が狭い言語である。

わたしの外国語学習法 (ちくま学芸文庫)

わたしの外国語学習法 (ちくま学芸文庫)