「や」の曖昧さとその効用

考えてみればあいまいですよね。

新聞の「今日の運勢」に

恋人や連れ合いと楽しい時間が。愛の幸せ

 

と出ていました。

 確かに、恋人とも連れ合いとも楽しい時間が過ごせればそれはもう愛の幸せというほかはありません。ついニンマリしてしまいましたが……。

 でも、冷静に考えたら「や」が曲者でした。占い師は「恋人がいる人は恋人と、連れ合いのいる人は連れ合いと」の意味で使ったのでしょう。

連休初日はグアムや韓国へ行く人で空港が混雑しました

の「や」も択一の「や」ですね。

でも 「細君にハンドバッグやコートを買わされて大散財の一日だった」 では 「と」 の意味の「や」もありますから……。

冒頭の運勢の「や」はやはりグアムや韓国の「や」でしょうね、きっと。残念……。

そう、「や」という接続詞はあいまいなんです。

でも、翻訳者にはマジック・ワード、魔法の言葉だったりもします。

 

並列の接続詞は大きく分けて2つ。

即ち、「及び」と「又は」。英語なら、「及び」は「AもBも」の andで、「又は」は「AかBのどちらか」で or。

でも、これら全部を包含する場合があります。つまり、「AもBも、でもいいし、AかBかのどちらかでもいいよ」という場合。これ、英語では 「and / or」 なんて表現をします。マニュアルや法律文書など、厳密な解釈が求められる文書で使われる表現です。

で、これの日本語訳に困るんですよね。いちいち「AとBの両方、またはAかBかのどちらかでも可」なんて訳すわけにもいきませんし。

あ、ちなみに技術翻訳の場合、たいてい文字数でカウントされるので、成果物カウントの場合はその分報酬が多くなりますが…スマートじゃないですよね。個人的には、and/or を全部これで訳してきた翻訳者には次回の依頼はありません。

そこで使うのがこの「や」なんです。日本語でも意味が曖昧なのをうまく利用するわけです。『「and / or」は「や」で訳しておきました』とかコメント付けておけば、あとはクライアントが判断してくれます。日本語→外国語の場合も同じ。

ただ、日本語における「や」は、ややフォーマル度が低いので文書によっては似つかわしくなく、NGの場合もあります。文章を書くって、本当に神経を使う行為ですよね。

 

「接続詞」の技術

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