あらためて、「は」と「が」の違い

よく、「『a』と『the』の違いだよ」なんて説明されたりもしますが……これは強力ですね。たった一字違うだけで、ずいぶん印象変わります。

 

ないものはない 

これは居丈高な物言いのひとつで、次のスーパーのチラシは実にうまく作られています。特にキャッチフレーズが秀逸です。その座布団三枚の傑作。

 

当店にないものはありません。


この、相反する2通りの意味と曖昧さの隠し味には、もう脱帽です。

(1) さあ、奥さん、お探しの品は何でもありますよ。お風呂のタイルの目地のカビ落としから、そのお顔のシミ抜きクリームまで何でもあります。

(2) だからね、おじいちゃん、置いてないものは置いてないんだってば。(入れ歯のスペアーなんてどこの店にあるってんだヨ、まったく。)

 

 言葉愛好家からすれば楽しい話なのですが、この曖昧さを排除するにはどうすればよいのでしょうか。次がその解答です。

当店にはない物ありません。

 

どうです、「は」と「が」の威力。

次はその実例。関西一の大型書店がオープンしました。

オープンのあいさつで、代表者はまず「これからは本の時代だ」と宣言。その上で「『ない本がない』書店を目指したい。この『知の百貨店』を、自身の出発点である関西に構えることに意義があった」と語っていた。

安藤忠雄 京都新聞 2011.2.24 )

 

この話を聞いて、わたしは西尾維新さんの『物語』シリーズのキャラクター、羽川翼の定型句を思い出しました。

 

「すごいな、羽川は何でも知ってるな」

「何でもは知らないわよ。知ってることだけ、だから」

 

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言葉遊び、言語遊戯の名手、西尾維新さんならではのやり取りですね。

幾度となく言及されてきた「は」と「が」の違いですが、その威力の違いを再認識しました。あらためて、「芸の引出」の手前の方に入れておきます。

 

助詞・助動詞の辞典

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