中山康樹のマイルス本。
まあ、内容はいつも中山康樹が書いてることと同じだけど、
この本は各アルバムに焦点をあてるのではなく、
全生涯を通してのマイルスの音楽を立体的に浮かび上がらせようと試みていて、
その分流れがわかりやすくなっている。
文学、美術などの諸研究では、
このような伝記的・文献学的事実を踏まえた作品研究は当たり前のことだが、
音楽、特にジャズの世界ではなかなか目にしない。
大抵は個人的思い入れたっぷりの作品論か、
データ偏重の「ものしり博士」的知識開陳。
ぼくが中山康樹を評価するのは、
「データを活かした作品論」を展開しているからだ。
それはマイルスでもビートルズでも変わらない。
以下、興味深いものを引いておく。
1951年、『DIG』発表。
これはハード・バップの先駆的作品だが、
この運動が本格的になるのは1954年、
マイルスがアルフレッド・ライオンとの約束を果たすべく、
ブルーノートに3回目の(そして「クレジット上」は最後のリーダーとしての)
録音を行ってからだった。
この空白の3年間は、当時ニューヨーク・ジャズ界を不況が襲い、
かわってロサンゼルスを中心とするウエストコースト・ジャズが
全盛を極めていたことを意味するが、
もう一つの要因として、マイルスの「不在」を挙げることができる。
この時期、マイルスはセントルイスの実家に戻り、
ヘロイン中毒からの更生に苦しんでいたためだ。
『オン・ザ・コーナー』のジャケットは、
友人であるコーキー・マッコイに頼んだ。
『オン・ザ・コーナー』は、類似点があるといわれる
ジェームス・ブラウンやスライ・ストーンよりもはるかにクールで、
興奮のヴォルテージを制御しようとする働きがある。
そこもまたマイルスの特長で、
ここにあるのは、上にも下にも前にもどこにもいかない、
「マイルス・デイヴィス」という「状態」だ。
そこがすばらしい。
『クールの誕生』に関していうと、
Gil Evansとジェリー・マリガンが目論んだのが
クロードソーンヒル・オーケストラのコンボ化/縮小化であり、
一方のマイルスが狙ったのは、
その逆のコンボのオーケストラ化/拡大化だった。
1955年のニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブを聴いて、
コロンビアのジョージ・アヴァキャンはマイルスを専属にする契約を結ぶ。
そして録音したのが『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』、
このとき、プロデューサーとして当時30歳のテオ・マセロも立ち会っていた。
マイルスは『ポーギーとベス』、『カインド・オブ・ブルー』、
『スケッチ・オブ・スペイン』の順に録音をしている。
このラインナップはまさに名作が生まれるべくして生まれたことを示す。
やっぱり面白いよなあ、中山康樹。
そうそう、『ビートルズを笑え!』も古書店で入手したが、
こちらは内容的に他のナカヤマ・ビートルズ本との重複が多いので割愛。
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