『エイリアン』〜『エイリアン4』

『エイリアン』が名作だってことに疑いの余地はない。
というのも、このフィルムはSF・ホラーの佳作でありながら、
レイプへの恐怖を描いた作品だからだ。
H.R.ギーガーによるエイリアンのデザインは
もちろん男根をイメージしたもので、
エイリアンの卵が発見される宇宙船もそう。
エイリアンの人間の殺害方法も口から伸張する
男根のようなもので肉体を貫通するものだし、
エイリアンの幼体*1が顔にへばりつくのは
男性のクンニリングス中の窒息への恐怖を表していると思うんだな。
エイリアンの殺害に刺激を受けたアンドロイドは興奮して
丸めた平凡パンチシガニー・ウィーバーの口に
無理矢理出し入れさせるし。
だから、エイリアンを退治し、生き残るのは女性でなければいけない。
それも、可愛らしくて男に従うような弱い女じゃなくて、
自立し、男と平等に意見を述べる力強い女。
『エイリアン』は物理的・精神的に男根に抑圧されてきた
女性的なものの解放の物語なのだ。
フェミニストは大好きだろうな、このフィルム。


……と、大まかな話の筋は覚えていたんだけど、
細部を忘れていたし、
その続編(なんと『エイリアン4』まであった!)は
ほとんど手付かずだったので、一気にすべて観た。
おかげで気分が悪くなったけど。


さて、この『エイリアン』全4作、実は監督がすごい。
ちょっと並べてみると、

『エイリアン』、リドリー・スコット
『エイリアン2』(”AILIENS”)、ジェームズ・キャメロン
『エイリアン3』(”ALIEN3”)、デヴィッド・フィンチャー
『エイリアン4』(”ALIEN RESURRECTION”)、
ジャン=ピエール・ジュネ

錚々たる顔ぶれだ。


簡単に感想を記しておくと、
もっともバランスが取れているのは『2』。
2作目のジンクスに負けずに、
第1作の思想的な核であるフェミニズム称揚の痕跡は残したまま、
良質のエンターテイメントに仕上げている。
153分と長いフィルムだけど、不思議と飽きさせずに観ることが出来る。
やっぱり基本的に上手な監督なんだよね、ジェームズ・キャメロンって。
大抵失敗する2作目を興行的にも成功させた功績は大きく、
『4』まで続編がつくられたのはジェームズ・キャメロンのおかげなのだ。


ところが、『3』(原題は『ALIEN cubed』。つまり、立方だ。)は
すごい大味。
リプリーと密な関係になるアンドロイドも出てこないしさ。
確かマスコミの惹句も「シガニー・ウィーバーが坊主になった」だの、
「今度のエイリアンは犬型」だの、
底の浅いものだったような気がする。
もっとも、そういうことしかアピールできなかったのかもしれない。
デヴィッド・フィンチャーの最大の特徴である
退廃的な美しさも感じられず、
物語の終盤はエイリアンの視点での追いかけっこが
長々と繰り広げられる。
デヴィッド・フィンチャーはとても真面目にやってるとは思えない。
挙句の果てにはリプリーがエイリアンを身篭っちゃって、
自ら命を絶っちゃうんだもんな……。
このシリーズの幕引きをしようと思うのなら、
もう少し気合の入ったものをつくって欲しいよ。
*2


……と思ったら、案の定『4』がつくられた。
そりゃそうだ。
あれで終わりじゃ第一作がかわいそうだ。
『4』の監督はジャン=ピエール・ジュネ
リプリーは死んだけどクローンで甦った……って、
もうそこらへんのディティールはどうでもいいや。
『4』になると、もはやエイリアンは男根の象徴でもなんでもなくて、
単なるモンスターとして、ホラー・アクション作品に成り果てる。
ギャグ的な要素まであるしね。
俳優も、『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』で
おなじみのジュネファミリーの面々だし、
はじめからB級ホラー・アクションとして観れば
楽しめるんじゃないかな。
とうとうリプリーも地球に帰ってきたし、
その気になればまだまだ続編はつくれるね。
是非『5』は地球を舞台に、
オドレイ・トトゥをキャスティングして欲しい。
『エイリアン』はホラーとかSFとかそういうジャンルを超えて、
もはやそれ自体一つのジャンル。
こうなったら以降は一作ごとにジャンルを変えていけばいいのにな。
推理ものとか、法廷ものとかさ。
いっそのこと、極限状態に追い詰められるという状況を利用して、
恋愛ものとかいいんじゃない。


冗談はさておき、やっぱり第一作の『エイリアン』は別格でした。
ドラマとして、ちょっとぎこちないところはあるけど、
象徴的な演出はピカイチだし、もっともエイリアンが怖いのも第一作。
とりあえず、4作全部観れたので満足。


でも、『エイリアン・ビギニング』や『エイリアン vs. プレデター』は
当分いいや…。


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*1:これ、「フェイス・ハガー」が正しいの? それとも「チェスト・バスター」?

*2:ボロクソに書いたけど、リプリーが人間とベッド・インした場面は、エイリアンを身篭ったことと対になってるのだろう。ここを膨らませていくと、もう少し面白い視点が得られるかもしれない。