とても繊細で、そして地味な映画だ。
なにしろ、メイン・キャストは、
遠く離れて暮らし、靴下工場を経営して生計を立てる兄弟と、
その兄に密かな恋心を抱いているでのあろう工場の古株の婦人の3人だけど、
3人とも50歳を超えている。
で、ほとんどBGMはなく、
観る者に特定の感情を喚起させるような音楽も使われない。
それでいて、兄の弟に対する嫉妬、弟の兄に対する愛情、
老婦の兄に対する思慕の念、
そしてそれに気づかない兄の鈍感さ・無神経さなどが、
静かに、しかしはっきりと示される。
その方法は、役者の目付きだったり、
意図的に差し挟まれるアップだったり、
執拗に反復されるシーンだったりと非常に映画的な方法で、
映画の文法に非常に意識的。
その姿勢は、だらだらと登場人物に感情を説明させたり、
大げさな音楽を使わなくとも映画を撮ることはできる、
ということの主張のようだ。
いや、むしろ繊細な人間模様を伝えるのには
むしろそれらは邪魔な要素なのであり、
この静的な撮り方でなければならない、
という意図的な提示と捉えた方が自然か。
その意味で、ラース・フォン・トリアーのドグマ95と
通じるところはあるかもしれないけど、
あそこまでストイックではなく、アキ・カウリスマキみたいな感じ。
まあ、あそこまで人工的じゃないけど。
この静的な演出は、この3人について観る者があれこれと妄想することを許し、
映画に奥行きをもたせることに成功している。
ラストも少々唐突な終わり方で、物語の結末をあえてを提示しない。
いわゆる「後は自分で考えて」というものだが、
確かに、この映画はこの終わり方がベストだ。
ちなみに、タイトルの『ウィスキー』は、カメラを撮る際の決り文句。
日本では「チーズ」ってやつだ。「1足す1は?「2!」」でもいい。
韓国では「キムチー!」だそうだ。
これは、それぞれその語を発音するときに口角が広がって
強制的に笑顔になるからで、
「ウィスキー」も、映画の中で写真を撮るときに使われる。
この言葉がタイトルに使われた理由などを考えるのも楽しい。
観る者の解釈を許す、何度観ても飽きない映画だろう。
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