『約三十の嘘』、監督大谷健太郎

細かいところまで目が行き届いた、抑制された佳作。
ぼくの好きなフィルムは、そんな感じのものが多い。
約三十の嘘』はまさにぼくの好みのど真ん中。
愛すべき佳作です。


もともとは土田英生の戯曲なので、極めて舞台色の濃い作品となっている。
鉄道の中で展開する、『スティング』風の騙し騙されの話。
役者は、椎名桔平中谷美紀田辺誠一八嶋智人
これに妻夫木聡伴杏里(それにチョイ役で徳井優)が加わるんだけど、
はっきりいってこの顔ぶれだったら、よっぽどのことがない限り
面白くならないわけがない。
その点、ちょっと役者が豪華すぎて反則です、嬉しいけど。


決して斬新な演出・効果があるわけでなく、
軽妙な裏切り劇が展開するわけだけど、
このフィルムで感心したのは役者の演技。
脚本もよく出来てると思うけどね。
ぼくは映画について述べる際に、
役者の演技がいいの悪いのって話はあまりしたくないんだけど、
この映画には降参。
さすがにみんな達者だ。
特に椎名桔平中谷美紀…!
クライマックスの場面は泣きそうになっちゃったよ、
共感しすぎちゃって。
『ジョゼ〜』もそうだったけど、
つくづく、男って生き物はどうしようもないと思う。
いくつになっても女のことになると
理性的にものを考えられなくなるし(特に下半身方面)、
そうかと思えば妙にロマンチストで、
自分で勝手に決めたルールを「美学」と称して頑なに固持しようとする。
欲望に忠実に生きたら、
男は皆それぞれにヲタクになるんじゃないかな。
……えーと、もちろんぼくもそんな男の一人なわけだけど。
女の方がはるかに現実的だよね、理性的ではないかもしれないけど。


とまあ、椎名桔平中谷美紀のやりとりは
男と女の違いみたいなものが実に上手く表現されている。
本当、うまいなあ。


音楽はクレイジー・ケン・バンド。
はじめはミスマッチじゃないかと心配したんだけど、
このバンドの安くて軽薄な雰囲気(ほめてるつもりです)が、
この作品の「小品のエンターテイメント」という雰囲気とうまく合っている。
場面を変えたり、雰囲気を変えるときに音楽が使われるけど、
これがなかなかいい。
こういうところに、演出の上手さを感じた。
あと、この話自体浪花節というか昭和歌謡の世界だからね、
その意味でもピッタリ。


とにかく面白かった作品なんだけど、しいて難点を挙げるなら、
伴杏里がちょっと弱い。
男どもは皆、彼女の取り合いをするんだけど、
悪いけど彼女にそれだけの魅力を感じないので全然共感できない。
絶対中谷美紀の方がいいじゃないか!
日本の男はロリコンで巨乳好きだから彼女が選ばれたのだろうか。
このミスキャストがちょっと残念。


さて、この監督の大谷健太郎、なんと『NANA』の監督でもある。
漫画の『NANA』は大きらいなので、
映画も観ることはない、と思っていたのだが、ちょっと心を動かされた。
でも、『約三十の嘘』が面白いのは脚本と俳優だからなあ…。
いくら宮崎あおいが出てても、
やっぱりちょっと『NANA』には手が出ないや。

約三十の嘘 特別版 [DVD]

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