『on and on』, Jack Johnson, 2003 


忘れもしないが、タワレコでフロアに流れる彼の音楽を初めて聴いたとき、
僕は連れとの会話を無愛想に打ち切って「NOW PLAYING」の画面を見上げていた。
モニターには「JACK JOHNSON」というミュージシャンの名前と、
そのアルバムのジャケットが映し出されていた。
海をバックにギターを弾いている男のシルエットのジャケットは、
シンプルだったがとても美しく、その音楽とピッタリであると思った。


それがこのアルバム、『on and on』 。


ギターは半ばアコースティック、ドラムはソロなんて言うに及ばず、
滅多にフィルも入れないでシンプルにパターンを叩いているだけ
(もちろんクラッシュなんてほとんど使わない!)。
たった三人だけで限りなく薄い音作りなのに、物足りなく聴こえないのは、
恐らくベースがグルーヴしてるせいだろう(ラインはやはりシンプルなのだが)。


テンポだって全17曲中BPM90を超えるようなものはない。
後にジャック・ジョンソン自身語っているように、
このテンポ・曲の流れはハワイの波そのものなのだろう。
波乗りに全く興味のない僕でも、
このアルバムを聴いていると海に行きたくなってしまう。


聴くたびに昇天してしまうのが、Tr.7の”wasting time” 。


I’m just a waste of her energy
and she’s just wasting my time
so why don’t we get together
and we could waste everything tonight
and we could waste
and we could waste it all tonight

 ……

but everybody thinks that everybody knows
about everybody else but nobody knows
anything about themselves,
because they’re all worried about everybody else

 ……


トム・ウェイツが歌ったら恐らく全く別の雰囲気、別の意味になるだろう。
薄汚い酒場で薄汚く年を取った男と女が世の中に悪態をつきながら……といった。


だが、この曲はそうではない。


歌詞だけ読めば、確かに厭世的な雰囲気を醸し出しているが、
Jackの音楽で聴けば、砂浜で恋人たちが交わす甘い言葉に聴こえてくるから不思議だ。


韻を踏んでいるというよりも、言葉遊びのように聴こえてくる。

(そういえば、Brecker Brothers の曲にも、
「I Love Wasting Time With You」という曲があった。
この曲も、フリーソウルのコンピに入れても全然おかしくないくらいに
 メロウでグルーヴィだ。)

聴く度に僕をTUBEやサザンとは違う海に連れていってくれるこのアルバムだが、
実は一枚通して聴くとなるとちょっと後半が退屈である。

1曲1曲をピックアップして聴く分には全然問題ないのだが、
やはりシンプルすぎるせいか、BGMとなってしまう。
もしもこのアルバムがレコードで出ていて、
A面とB面で裏返して聴くようになっていたら、
歴史的な名盤になっていただろう。             

最近3rdもリリースし、これまた確かな成長がうかがえる傑作。


On & On (Dig)

On & On (Dig)