『スラムダンク ―あれから10日後』、井上雄彦、i.t.planning、二〇〇四年

この興奮を、どう表現すればいいのか。
「『スラムダンク』の続きが井上雄彦本人によって描かれる!」。
日本の男の子で、この知らせを聞いて落ち着いていられる人はいないだろう。


そもそものはじまりは、去年(2004年)に、
スラムダンク』のコミックの売上が一億冊を突破したことだった。
あまりのことに作者の井上も事態が飲み込めず、
彼がとりあえずしたことは読者への感謝だった。


2004年の夏、新聞6紙の朝刊広告欄一面を使い、
井上は6紙それぞれ異なるイラストを掲載した
(僕は朝日だったのでルカワだった)。


だが、それだけでは気持ちを整理できなかった井上は、
さらにもう一つの計画を考えた。


それは、廃校を借りきり、『スラムダンク』の読者とのふれあいの場にし、
さらにそこの黒板に『スラムダンク』の「あれから10日後」を描こう、
というものだった。
この計画は12月の3〜5日に実行され、「井上図書館」が設立されたり、
体育館では井上自身がバスケを楽しんだりもしたらしい
(以上の経緯は『SWITCH』2005, vol.23, no.2「井上雄彦特集」に詳しい。
また、『SWITCH』は以前にも2002, vol.20, no.3で、
バガボンド・トライブ」という井上雄彦特集を行っている)。


本作品は、そのときの黒板に描かれたマンガを写真に撮り、
それを24枚のポストカードにしたものである。
これは通信販売で直接「i.t.planning」に申し込むしかなく、
それが今日届いたのだ。


内容は、タイトル通り。


特に新しい進展があるわけではない。
引退したもののバスケがしたくて勉強に集中できない赤木、
キャプテンになっても相変わらずフラフラしてる仙道、アメリカに渡る沢北、
そしてリハビリに励む桜木…。


本編の日常がそのまま継続して描かれている。


「いつまでも、『スラムダンク』の井上雄彦と呼ばれつづけることに抵抗があった」と語る井上だが、今回の計画を終えてみて、自分の中で一つの整理がついたらしい。


思うに、井上はこの「その後の話」を描くことで、
大ヒットしてしまった『スラムダンク』と自分との距離を
測りなおすことが出来たのではないだろうか。


そしてそれは読者である僕たちも同じだ。


後ろ向きに昔を回顧する、ということではなく、
新しい局面に向かっていくための足場の確保。
そのようなものとして、このイベントは受け止めたい。
井上も、『スラムダンク』の続編を描くことに興味がないなら、
他のバスケマンガをどんどん描いていけばいいのだ。
BUZZER BEATER』や『リアル』のように。


……あと、なるべく『バガボンド』は定期的に描きつづけて欲しい…。          

Switch (Vol.20No.3)

Switch (Vol.20No.3)