『Tupelo Honey』、Van Morrison, 1971年

勝手に私が人生の師と仰いでいる歌い手がいる。
エルヴィス・コステロトム・ウェイツ、そしてこのヴァン・モリソンだ。*1
ジム・モリソンではない。

人に話すとよく間違えられるのだが、
ヴァン・モリソンはジム・モリソンではない。
ジム・モリソンの魅力は狂気スレスレの破滅性にあるのだろうが、
ヴァン・モリソンの魅力は、
彼の音楽、さらには人間性が「硬派」なところにあるのであり、
両者は似ても似つかないのである


ヴァン・モリソンに初めて出会ったのは、
映画『フレンチ・キス』のエンディングのピアノが美しい「someone like you」。
アレンジも演奏も特筆すべきことはないのだが、
ただただ、その歌の力とヴォーカルの力に圧倒されてしまった。


そして、私の勝手な弟子入りを決定的なものとしたのが、
スコセッシが撮った、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』。
もちろん同時代的に観たわけではなく、
数年前にリヴァイバルで上映していたのを観たのだ。
主役であるはずのザ・バンドのメンバーや他の共演者を後ろにして、
「caravan」を歌う姿に完全にノック・アウトされた。


その魅力を一言で表すなら、「硬派」という言葉になるだろう。
R&Rにありがちな露悪的なものではなく、「自己を律する」という意味での硬派。


この『テュペロ・ハニー』や『エンライトメント』のような、
「自律の精神」に満ちた音楽を、私は無性に必要になるときがある。
もちろん、『ムーンダンス』や『アストラル・ウィークス』のような
詩的で幻想的な世界も好きなのだが。


ヴァン・モリソンの音楽を聴くと、
尊敬する気難しい年長者から、あまりに正論すぎる説教を受けている気になる。
今日はずっと『テュペロ・ハニー』を聴いていた。
明日から真面目に生きよう。 そう思った。
しかし、最後の曲の「Moonshine Whiskey」の終わり方は
少々唐突のような気がする。
密度の高いアルバムなのだから、もう少しどっしりと終わって欲しかった。


ところで、キャリアが長いから当然といえば当然なのだが、
ヴァン・モリソンはアルバム多すぎである。
コンスタントにアルバムを発表する、というところにも
彼の真面目さが現れているような……。


補足だが、
最近では、『ザ・ロイヤル・テネンバウム』のエンディングに、
感動的な「EVEYONE」(『ムーンダンス』収録)が使われている。
ウェス・アンダーソンのセンスに脱帽だ。
まるで、この映画のために書いたかのような曲、アレンジ、そして詞ではないか。
 
しかし、何故かこの曲はサントラに入っていない。
権利の問題だろうか?
実に惜しい話である。


テュペロ・ハニー

テュペロ・ハニー

*1:最近、これにジャック・ジョンソンが4人目として加わった。それぞれ、「理知」、「ダメ人間」(よい意味で)、「漢」(もちろん「おとこ」と読む)、そして「スローライフ」となるだろうか。