Jazz collective の衝撃

Jazz collective というバンドを聴いたことがあるか?
もしも聴いたことがないなら、今すぐクラブへ急いだ方がいい。

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簡単に紹介しておこう。
「collective」とは、「共同体」とか「グループ」くらいの意味だ。
名前通り、ジャズを主体としたサウンドのバンドだが、
「クラブジャズ」という言葉ではひとくくりに出来ない。
彼らのページから引いておく。

東京のクラブシーンを席巻するjazz / crossover band、Jazz collective
2004年、当時渋谷のThe ROOMで"SOFA"やその他のイヴェントで
活躍していたミュージシャン7人で結成。
Jazz collectiveはクラブ・ミュージックを根本から見直し
高いクオリティーでの音楽を提供するため
数多くのDJやクリエーターとコンタクトをとり研究、
演奏活動を行っている。
レパートリーはjazz / crossover, broken beats,
brazilian house...etc.
彼等の活動はすでにあらゆる場面で高い評価を受けている。

ページは〈http://www.jazzcollective.net/〉。


5/27(土)、大阪 jaz’room “nuthings” のイベント、「JAZZIZM」。
実はぼくもこのバンドの音を聴いたのはこの時が初めてだった。
聞けば、Jazz collectiveはこれが関西初ライブ。
ぼくは貴重な関西進出の瞬間に立ちあえたというわけだ。


で、そのサウンドは……いやはや、度肝を抜かれた。
クラブ・ミュージックというのは、単に踊るため、騒ぐためだけの音楽ではない。
いや、もちろんそういう面があることは否定しないが、
ぼくがクラブ・ミュージックを聴くのはそのためではない。
それは、この音楽が創造の意志に満ち溢れているからだ。
これについては、以前にorange pekoe の藤本一馬の言葉を引いた。
そして、Jazz collective の音楽はまさにこれ。
極めて極めて創造的、しかも高い演奏技術に支えられている。


世代的には SOIL & "PIMP" SESSION と同じで、
メンバー間の交流もあるらしいけど、目指す音楽は異なる。
ソイル〜は「爆音・パンクジャズ」だが、
Jazz collective は細部まで緻密に考えられたアレンジが光る。
フロントはtbとsaxだが、
よくあるクラブ・ジャズのバンドのように管のソロでごまかすような事はない。
実際、この日も管のソロは数えるくらいしかなかった。
これは、プレイヤー全員が充分均等に
ソロを取ることができるからでもあるのだろうが、
それよりもこのバンドでは全ての楽器がリズム楽器として機能しているからだ。
管が一音のバッキングしかない曲もある。
(しかもその一音がすごい説得力…。)


とにかくアレンジが凝っている。
そもそもフロントにtbというのが渋いが、
さらにミュートをつけて、
主にバンド内でハーモニーやサウンド・エフェクトを担当しているのもいい。
和音とグルーヴへのこだわりは、
このバンドがジャズの嫡子であることの証明だ。


また、こういうバンドではビジュアルを意識して
ベースがウッド・ベースであることが多いが、ベースはエレキ。
だが、明らかにこのバンドの見せ場の一つである
ドラムとベースのスリリングなソロ・バトルはエレキが似つかわしい。
レスポンスの速さを重視すれば当然だろう。
そして、それは成功している。
また、パーカッションがいるのも嬉しい。
優秀なパーカッションの存在は、バンドに豊かな色彩を加える。
それはドン・アライアスが参加している音楽を聴けば明らかだろう。
特に単調になりがちなクラブ・ミュージックに欠かせない存在だ。
鍵盤もギターももちろん素晴らしいセンス・演奏能力だ。
悔しいが、どこにも隙がない印象を受けた。
欲をいえば、フルートやエフェクトをかけたソプラノのソロもいいけど、
破壊的なテナーのソロをもっと聴きたかった!
なんとテナーのソロは1曲しかなかったのだ。
(もしかして、これはこのように出し惜しみして
気を引く演出なのかもしれない…。だとしたら罪な演出だ…。)


このバンドを聴くまで、クラブ・ジャズは構成の音楽だと思っていた。
複雑なビートやサンプリングとウワモノをどのように絡めるか、
各パートの足し引き、引用という伝統への目配せ、といった要素の構成だ。
しかし、音楽はそういうものではない。
ハーモニー、表現としてのソロ、インタープレイ…。
クラブ・ミュージックも音楽である、という当然のことを忘れていた。


10年前、ブランフォード・マルサリス
「ジャズは他のポピュラー・ミュージックとは違う。
 もっと高度で洗練された音楽だ。
 ぼくはジャズ・ミュージシャンが本気になってポピュラー・ミュージックを
 手がけたらどうなるか、ということをやってるんだ」
と言い、STINGの音楽に参加したり、
DJプレミアとバック・ショット・ル・フォンクを結成した。


意図はブランフォードと一致しないかもしれないが、
ぼくがJazz collective を聴いて思い出したのはこの言葉だ。
ジャズ・ミュージシャンが本気になった時の凄み。
なにしろ、久しぶりに出音一発でフロアの空気を変えられるバンドなのだ。
そのサウンドを体験できたことを嬉しく思う。


…だが、嬉しく思う反面、辛くもある。
実はぼくはこのバンドと世代的にほぼ同じ。
同じ世代の人間がこれだけのことをやっているのに、
お前はどれだけのことがやれているのか?
そんなメッセージを受け取ってしまった。
忸怩たる思いだ。


しかし、これが刺激を受けるということだろう。
また関西でのライブを期待している。

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