「For JAZZ audiences」 (Joshua Redman)

This album is dedicated
to jazz audiences past, present, and future:
You give jazz music its vitality, its relevance,
its immediacy, and its timelessness.


Without you, jazz would be just a proposition; a theory;
a question without an answer;
a call without a response; a road leading nowhere;
an isolated, unfinished, abandoned thought.


With you, jazz becomes an expression; a reality;
an ongoing, engaging dialogue;
a shared experience; a journey which comes full circle;
a collective, spontaneous, liberating spirit.


Through you, jazz lives.
                     (Joshua Redman

ジョシュア・レッドマンの1995年の歴史的ライブ盤、
『Live At The Village Vanguard』のライナー・ノーツより。
ぼくがプレイヤーとしてまだ現役だったとき、
ジョシュアのこの言葉はぼくの座右の銘だった。
特に、

あなたたち聴き手がいなければ、
ジャズは単なる定理・理論でしかないだろうし、
それは結局のところ、
答えのない問題、返事のない問いかけ、
どこにも続いていない道のようなもので、
つまりは、孤立して、未完成で、放棄された思考でしかないだろう。

というところに深く共感していた。
十年近く前に複数のバンドに在籍していた頃、
かなりの数のライブを体験したが、
そのとき学んだことは、いいライブにはいい客が必要不可欠だということ。
いくらいい演奏をしても、それだけではいいライブは成立しない。
逆に、少々調子が悪くても、
お客さんに助けられていい演奏ができる日もある。
客の力は偉大なのだ。


で、ぼくは今ではプレイヤーは引退して、
専ら、よきオーディエンスたろうとして活動しているわけだけど、
最近この言葉がぼくの中で再び響き始めている。
それは、ジョシュアのこの言葉は、
なにもジャズだけに限定してあてはまるものではないからだ。
例えば、社会人として書類を作っているとき、
またはこうしてブログに駄文を綴っているとき、
ぼくは誰に向けて「call」しているのだろう。
「受け手」を考えないアクションは、すべて「孤立した思考」だ。
これは大げさにいえば「他者論」とかになるだろうけど、
まぁ、そんな大げさな話じゃなくてもいい。
ぼくがジョシュアのこの言葉を今でも愛しているのは、
表現者・行為者としてのジョシュアの立ち位置に共感するからだ。
そしてそれは昔から変わっていない。

さて、少々青臭いこの言葉を、
わざわざジョシュアがライナー・ノーツに記した理由は、
ジョシュア自身、
「jazz audiences, past, present, and future」の1人だからだろう。
このアルバムは2枚組だけど、
1枚目は明らかにコルトレーン、モブレー、ロリンズという
テナー・ジャイアンツを意識した内容。
伝統を継承しつつ、しかしそれを乗り越えんとする意志に満ちた演奏だ。
2枚目はほとんどオリジナルだしね。


だらだら書いたけど、このライブ盤はやっぱり楽しい。
ちょっとイージーだ、なんて批判も耳にするけど、そうかなあ?
音楽の力を実感することができるライブ盤だよ。


そういや、現在都内で名を轟かす本格派クラブジャズバンド、
「Jazz Collective」ってもしかしたらここから来てるのだろうか?


Spirit Of The Moment: Live At The Village Vanguard

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