『Three Street Worlds』, Two Banks Of Four

久しぶりに素晴らしい音楽に出会った。
『Three Street Worlds』によって、
ジャズ/クラブミュージックは新たな地平に到達した――
というのは大げさか。
しかしそれほどこのアルバムは素晴らしい。


編成はドラムがいなくて、ウッドベース,管楽器など他は全て生楽器。
リズムトラックはMPCなどで作っているのだろう。
この組み合わせがクラブミュージックと相性がいいのは、
オレンジペコーで証明済み。


なんといっても#1の’Two Miles Before Dawn’から
#4の’Banks of the Nile ’までの4曲、
これがこのアルバムの全てだ。
グルーヴ、緊張感、美しさ、アイデア、どの面から聴いても圧倒的だ。
この4曲は全て3拍子(#3と#4は6/8)だけど、
アクセントの位置やテンポ、ビーツが全部違う。
#1は1拍目、#2は3拍目にアクセントがあり、
#4は6/8のブレイクビーツ


そして白眉は#3の「One Day」だ。
この曲は本当に美しい…。
「いかにも」なベースラインで始まるが、
緊張感に満ちたヴァレリー・エティエンヌのヴォーカルが
サビでハーモニーになり、さらに管楽器とハーモニーで
リフを繰り返すところでぼくは涅槃に到達する。
素晴らしい音楽を聴くと気が遠くなる。
いい音楽を聴いたときのこの陶酔感って、
やっぱり一種のドラッグだ。


ちなみに、この曲「One Day」は、ジャイルス・ピーターソン
自身のミックスアルバム、『worldwide programme 3』でつないでる。
このCDは、クラブミュージックのミックスCDだけど、
全体的に静的な雰囲気で構成してあってとても面白い。
アンビエントともラウンジとも違う、不思議な流れが体験できる。
で、「One Day」だけど、
ジャイルス・ピーターソンはこの曲の後に
The RH Factor*1の「Poetry」をつなぐ。


すげえカッコいい。


凡百の音楽ヲタクとジャイルス・ピーターソンとの違いは
こういうところにあるのだろう。
選曲によってその音楽を新しいものにすること。
それこそがDJの存在意義だ。


と、4曲目までは冷静にものを考えられないくらいに
圧倒的なアルバムなんだけど、
残念ながら残りは少し弛緩気味。
それを意識してか、#5は間奏曲のような短い曲で、
以後は全て4拍子で作られている。
…いや、#8の「Endless」や#9「Closer」、
#12「Rising」のようにいい曲もあるんだよ。
でも、あまりに#1〜#4が圧倒的なので、印象が弱くなってしまう。
まさに中山康樹言うところの『Somethingelse』状態。
仕方のないことかもしれないけど。


とにかくこのアルバム、以前このブログでも書いた、
Gerardo Frisinaの『hi note』と並ぶ名作だ。
『hi note』がラテン・ミュージックとジャズをベースに、
シンプル・反復をモチーフに楽しみながら創り上げた
クラブミュージックとするならば、
『Three Street Worlds』は作りこむことで内的に深化し、
逆に突き抜けてしまったような音楽だ*2
もちろん、どっちが上というわけではない。
こういった両方の音楽を生む土壌がクラブミュージックなのだ。

さて、このTwo Banks of Four
ガリアーノのロブ・ギャラガーを中心に、ディル・ハリス
(元ヤング・ディサイプルズのエンジニア)のサポートで
組織されているらしい。
同じトーキン・ラウドでも、インコグニートは死ぬほど聴いたんだけど、
ガリアーノはほとんど聴いてないんだよね。
ガリアーノから聴きなおします。


Three Street Worlds

Three Street Worlds

Worldwide 3

Worldwide 3

*1:Roy Hargroveのクラブミュージックユニット。

*2:妊婦が街を見下ろすジャケットが象徴的だ