『スピルバーグ』、筈見有弘

[book] 『スピルバーグ』、筈見有弘講談社現代新書、昭和62年

スピルバーグは単なる娯楽映画の監督ではない。
それに気づいたのは実はつい最近のことだ。


もちろん、子供の頃は夢中になった。
カットや演技、詰め込まれた思想など考えもせずに
スピルバーグの映画を娯楽として楽しんでいた。
だが、中学、高校と成長し、背伸びして映画を観るようになると
スピルバーグの映画を子供向けとして敬遠するようになった。
しかし、これはいま観ると昔と違う面白さがあるのである。


例えば、
E.T.』の主人公の家庭は、父親が不在の母子家庭。
そこに訪れる「無力で周囲から存在を隠さなければならない」E.T.とは
明らかに父親の比喩なのではないか。
シンドラーのリスト』はユダヤ人迫害を扱った作品だが、
スピルバーグユダヤ人であることは作品にどのような影響を与えているか。
また、『激突!』や『ジョーズ』の
低予算撮影術なども演出術として実に興味深い。


本書は昨日の『ヒッチコック』に続き、筈見有弘の新書映画監督本。
特に、スピルバーグと比較されることの多い
ジョージ・ルーカスロバート・ゼメキスらとの関係を軸に書かれている。
ヒッチコック』がヒッチコック入門書という体裁だったのに比べ、
こちらはスピルバーグを中心として、
アメリカの60年代後半から80年代前半までの娯楽映画を
概観できるように書かれていて面白かった。


そうそう、スピルバーグが製作総指揮を務め、
彼の初のアニメーション映画『アメリカ物語』は、
ユダヤ移民の物語をネズミに置き換えた物語らしい。
これは知らなかったなぁ…。
筈見有弘スピルバーグユダヤ性は今後の作品で判断する、
と留保しているが、
ぼくは大きなテーマだと考えている。
シンドラーのリスト』はもちろん、『プライベート・ライアン』、
あと『宇宙戦争』などもその流れで考えられると思っている。
ただ……アメリカにはユダヤ・ロビーの存在があるから、
一概にスピルバーグユダヤ性とその作品を評価できないのだけれど。
ジョン・ゾーンの『ラディカル・ジューイッシュ・カルチャー』じゃないけど、
アメリカ文化に脈々と流れるユダヤ文化というのは実に面白いテーマだ。
この研究において、何か定番となっている本はあるのだろうか。
そして、それにおけるスピルバーグの位置とは?
これは今後の課題とする。


スピルバーグ (講談社現代新書)

スピルバーグ (講談社現代新書)