なんでもかんでも「お」をつければいいってもんじゃない。
それは承知しているつもりですが、丁寧な文を書こうと思うと、ついつい「お」だらけになってしまいます。
「お」の不思議
丁寧・尊敬の「お」を自分に使う例
初めてお手紙を差し上げます。
これは「自分の」というより、「あなたに差し上げる」の意味か。
目上の人に目下の者がする自分の行為に「お」を冠する例は普通である。
では明日午前10時にお伺いいたします。
次は、丁寧・尊敬の「お」で笑ってしまった例を。エステサロンの広告。
おシミ専用コスメ シミを1日で500個以上も取り除きます。(週刊T&T 2012.5.4)
女性にとって、憎らしい顔の(おっと、モトへ)、顔の憎らしいシミに「お」をつけるなんて! 「シミ」をとる前に「お」を取ってくれないか、お願いだから。
ある老舗のチラシです。「お客様の声より」として掲載され
ていた。
口にする度に「美味い!」と言葉が出ました。上品なお味がたまりません。近々お店にお食事に行くのを楽しみにしています。(大阪府 T.S様)
(京都『一の傳』チラシ 2012.5.9 )
「お味」「お店」の「お」の使い方はよいとして、T.Sさん自身の食事のことを「お食事」と言うのはどうでしょうか。いや待てよ、美味しい料理を出してくれるお気に入りのお店が出してくれるのだから「お食事」と言ったのか。
次は同じ範疇なのに、「お」をつけると鳥肌がたちそうなもの。
トマトとキュウリ、ナス等、見よう見まねで頑張って作りましたが、今年もトマトもおナスも本当に出来が悪くて、2回しか送ってやれませんでした。
「お」ナスは料理番組でも耳にするけれども、同じ野菜なのにトマト、キュウリには「お」をつけない。この「おナス」、それほど鳥肌が立たないのは何度も耳にしているからか。
次は、「お顔」はいうが、「お頭」は聞いたことがない!
ヘアスタイルの基本はカットテクニックとデザイン力で決まる! と考え、単なる削ぎでごまかすのではなくあなたの頭やお顔の骨格・生えぐせに合わせて、シーザーカットやレザーカットなど、多彩なカット技術を髪質や髪形に合わせて使い分け、バランスをとりながら、まるで彫刻のようにしっかりとベースを造ります。
(美容院パッション 2016.7.12)
次は、「お国」
もうそろそろ気がついてほしい。「お国」なんて言葉を使うのは日本だけだ。外国では国は国、カントリーだ。「お」なんかつかない。あの戦争で三○○万人もの人が死んだはずなのに変わらない。その意味で日本は特殊な国だ。
(大橋巨泉『「第二の人生」これが正解!!』)
鋭い巨泉さんらしくない。日本語と比較するなら、外国語で「お」をつける語とつけない語があることが前提になければならない。「お」に相当する丁寧語はないのだから英語では「カントリーだ。「お」なんかつかない」と言われてもねえ。巨泉さんは2016年7月20日に逝去された。
(大橋巨泉 1934-2016)
これに関連して、面白いものを見つけました。
分類カテゴリーが興味深いです。
「お」「ご」を使わないと意味がわからなくなるものや、意味が違ってくるもの
女性が使わないと乱暴に聞こえるもの
相手に対して使うと尊敬語になるもの
「お」を取ると意味がわからなくなる長い言葉の短縮語
使う習慣のないもの
これでMECEになってるかは疑問ですが、切り口はおもしろいなあ、と思いました。
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