金密輸・脱税 業者が暗躍(朝日新聞 4/3 夕刊)

税関通さず、売り子に売却任せる

金相場の上昇傾向が続くなか、金塊の密輸が急増している。税関では消費税を納めず、売却は闇の業者が連れてくる「売り子」に任せ、所得税を逃れる手口が横行。差益に加え、脱税分も「もうけ」になる仕組みで、国税当局は危機感を募らせている。




「割のいい小遣い稼ぎ」関係者

「金塊を正規に売れば、税金を取られる。『業者』に頼む方が賢い」。所有者に代わり、金塊を売却する役割の「売り子」を関西で仲介したことがある30代の男性が取材に応じた。

 元暴力団組員の業者から売り子探しを頼まれたのは昨春。所有者の素性は知らされなかったが、行きつけのパチンコ店で顔見知りの中年女性に「簡単な仕事」と持ちかけたという。

 持ち逃げなどのトラブル防止のため、女性は所有者と一緒に大阪・南船場の貴金属買い取り店に行き、顔写真付きの身分証を示して自分の名義で数千万円分を売却した。所有者が正規に手続きすれば所得税が課せられる。免れるのが目的とみられ、業者は所有者から手数料数十万円を受け取り、女性には男性を通じて2万円が支払われた。

 男性によると、買い取り店には多くの売り子が出入りしているといい、「割のいい小遣い稼ぎ。自分の周りにもやっている人は少なくない。店を観察していれば、明らかに金塊を持っていなさそうな風貌や年齢の人が出入りしているのがわかる」と話す。

身元追跡 難しく

海外から金を輸入し、日本で売却すると、消費税や所得税が課せられる。

 消費税は購入額が20万円を超えると対象となり、関税法などに基づき、税関で8%を納める必要がある。国内では購入も売却も消費税を上乗せした価格での取引となり、密輸すれば売却時に8%の利ざやが稼げる。

 一方、所得税法の規定で、200万円を超える金を買い取った店は客の連絡先や金額を記した「支払調書」を税務署に提出しなければならない。税務署はこの情報に基づき、所得税額を計算する。

 しかし、名義を貸した売り子に税務署が連絡しても「知らない人に頼まれた」などと言われれば、所有者とみなされず、課税はできない。売り子に任せれば所得税分がそっくり浮くため、手数料を支払っても売り子の需要は高く、裏ビジネスが成立する。

脱税額、過去最高に

成功すれば確実にもうけられる金塊の密輸。税関による捜査機関への告発と、罰金などの通告(行政処分)の件数は、2015年7月からの1年間で計294件(前年度比1・7倍)に上り、脱税額は約6億1千万円(同2・6倍)で過去最高を更新した。

 増加の背景には相場の上昇に加え、14年の消費増税があるとみられる。捜査関係者によると、外国組織や暴力団関係者のほかに、個人で違法行為を何度も繰り返すケースもあるという。

 一方、国税当局は売り子を使う密輸組織や業者の存在に神経をとがらせる。しかし、売り子は所有者の素性などを知らないことが多く、組織の全容を解明し、課税に結びつけるのは困難だ。国税関係者は「消費税ばかりか所得税も免れており、非常に悪質だ。早急に手を打つ必要がある」と警戒を強めている。(岡野翔)

密輸事件の没収金塊64キロ、3億円で落札 大阪地検

大阪地検で3月3日、密輸事件で没収した金塊64キロの一般競争入札があった。予定価格は2億9766万円(税込み)で、単独で応札した大阪市の企業が3億398万円(同)で落札した。

 この金塊は、関税法違反などで有罪が確定した被告が密輸した。今年1月の入札では、応札がなく不調に終わっていた。金買い取り店「ゴールドプラザ」(本社・大阪市北区)は「金は世界標準価格で取引されるため、本来、入札はそぐわない。ただ、今回は相場より安く、資金力のある業者にとっては取引先が国という安心感もある」と話す。(畑宗太郎)