『愛の井口昇劇場』

最近、ショート・フィルムづいているので、
同じ棚にあったこの作品もレンタル。
特に井口昇に思い入れがあったわけではない。
このDVDに収録されている作品は、
どれもショート・コメディの形式だが、
その実、井口昇の暗い内的な欲望が投影されたものだ。
即ち、「愛するものの苦しむ姿をみていたい」というもの。
この暗い欲望が、形を変えて何度も発現する。
「クルシメさん」や「俺の空(くう)」、「アトピー刑事」は、
恐らく機材やフィルムの問題で画像と音声が悪いのだが、
それでもこの生々しい欲望の発現を楽しむことが出来た。


問題は、多分高校時代に撮影したであろう「わびしゃび」。
好きだった後輩の女の子に会うために、母校の文化祭を訪れる内容で、
脚本も何もなく、ただ、ありのままに道中と女の子、
そして煮え切らない自分自身を撮影しているだけ。
時折挟み込まれる私的な映像は面白いが、正直、大部分が観てられない。


一般的に、作品はというものは作者が自分を曝け出した方が
面白くなるものなのかもしれないが、
「わびしゃび」はイタイ。
好きな異性をカメラに収めたり、曲を書いたり――
それはそれで全然悪いことじゃないし、
むしろ数々の名作を生む出発点であるけど、
別にそれを見せてくれなくてもいい。


いや、これは適切じゃないな。
書きながら気づいてきたけど、ぼくにあまり関心のない人が
ここまでプライベートな部分をぼくに曝け出していることに対して、
軽い嫌悪感を抱いているのかもしれない。
もしも、これがぼくが興味を持っている作家の作品だったら、
もっと関心をもって観ていただろう。
もう少し作品として整理されていれば評価できたのかもしれないが。
これでは、単なる心情の垂れ流しになっており、
しかもそれが煮え切らないまま、未消化のままあるだけ。
やっぱり、なぜこれを市場に流通させることを許可したのか、
理解に悩む作品(?)でした。

クルシメさん/アトピー刑事 愛の井口昇劇場 1988-2003 [DVD]

クルシメさん/アトピー刑事 愛の井口昇劇場 1988-2003 [DVD]