『存在の耐えられない軽さ』、ミラン・クンデラ、1984、集英社

10代のころ、「本を読む」というのは「小説を読む」ことだったが、
最近はほとんど小説を読まなくなった。


この読書傾向の変化は意識的なものではなくて、興味の赴くままに本を選んでいるだけ。
いまのぼくは、物語の筋を追うことよりも知識に飢えている。


そんな状況なので、この小説も話の筋にはあまり興味は持てなかった。
もっとも、語りの形式も複雑で、話の筋で読ませる小説ではないというのもあるのだが。
そして、なにより共産主義政権をめぐる政治的背景が濃厚で、ちょっと距離を感じてしまった。
あまり精神的に余裕がなかったせいか、いまひとつ楽しめなかった。


だが、いくつか心に残った箇所を引いておく。

…考えたことを撤回することはできない。ただ、発言は撤回することができる。

終章の、「カレーニンの微笑」は読んでて辛くなる。
飼い犬のカレーニンが癌にかかって安楽死させる話だが、
猫を飼い始めて1年経つせいか、ちょっと冷静に読めなかった。


…こうしてまとめてみると、ぼくはこの小説の何か大事なものを読み逃しているような気がしてならない。
だが、これが現段階の感想である。


なお、タイムリーなことに、この本を読み終わった頃にクンデラスパイ疑惑が明るみに出た。

作家クンデラ氏にスパイ通報疑惑 チェコ、共産政権時代

【ウィーン21日共同】
小説「存在の耐えられない軽さ」や「冗談」などで知られ、
ノーベル文学賞候補にも名前が挙がるパリ在住のチェコ人作家ミラン・クンデラ氏(79)が青年時代、
共産政権下のチェコスロバキアで西側のスパイを警察に通報していたとの指摘が明るみに出て波紋が広がっている。


チェコの「全体主義体制研究所」の発掘した資料に基づく調査内容を地元誌が報じた。


クンデラ氏は1968年の「プラハの春」に支持を表明し、
フランスへの亡命を余儀なくされた共産体制への“抵抗者”とみなされてきた。
ニューヨーク・タイムズ紙は
共産主義の非人道性を批判してきた「クンデラ氏の倫理性を崩壊させるものだ」と指摘するなど
波紋は欧米諸国に広がっている。


50年、当時プラハの大学の学生寮寮長だったクンデラ氏が、
女子学生の男友達について警察に通報。スパイだった男友達が逮捕され、
禁固22年の判決を受けたという内容。


クンデラ氏は「通報していない」などと全面否定。
チェコ国内では共産政権時代という「触れたくない過去」と著名作家をめぐる問題だけに注目され、
同氏擁護と批判の声が交錯している。
山陽新聞、10月21日18時13分)

存在の耐えられない軽さ

存在の耐えられない軽さ

存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)

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