てんつき

わたしの子どもの頃は、川遊びは日常的ではありませんでした。

今の子どもにとっては、それ以上に非日常的な経験でしょうね。

てんつき 

 寺田寅彦に『鴫突き』がある。この「珍しい狩猟法」は高知付近の狩猟法で、冬の田んぼで餌をあさっている鴨を、飛び立つ瞬間に捕する方法だそうである。網を投げやりのように突き飛ばす操作から「突く」といったようだ。

 これを読んで、私の故郷で小学生時代の川遊びを思い出した。網で川魚を捕る。ハヤ、オツボ、オコゼ、ドジョウ、ムギツコ。珍しいものではギランだったかテドンだったがいたが、これは今思い出すと外来種だったような気がする。体形はうすっぺらなカワハギに似ているが、素手でつかむとヌルヌルと気味が悪かった。

 こういった小魚を捕る網を「てんつき」と言った。透明のナイロンテグスの網。直径は10㎝、30㎝の2種類だったか。大きい方が50円もしただろうか。夏の川遊びが学校で許可されると、男の子は釣り道具屋にお小遣いを握って走った。

 この「てんつき」はどんな漢字をあてていたのだろう。高知「鴫突き」からの類推だと「てん突き」だが、「てん」が分からない。分からないから、親に「てん突き」代をもらう時「てん」を「付く」って危ない物じゃないの?と問われて答えに困った。「てん」という魚は小川にいなかった。今でもこの宿題の答えは見つかっていない。

 

「鴫突き」、青空文庫にありました。

 

随筆 五――科学1 (新版 寺田寅彦全集 第I期 第5巻)

随筆 五――科学1 (新版 寺田寅彦全集 第I期 第5巻)

  • 作者:寺田 寅彦
  • 発売日: 2010/01/09
  • メディア: 単行本