季節外れなのは承知の上です。

最後に蚊帳の中で寝たのはいつのことでしょうか。

 まず漢字の成り立ちから。「ブ~ン」と飛んでくる虫だからその羽音に「文」を当てて「蚊」。ウソのようなホントの話だそうです。蚊はきわめて小さなもの、極小、軽微なもののたとえに使われます。手もとの国語辞典を引くと、「蚊の鳴くような声」「蚊の涙」「蚊の食う程にも思わない」などがあります。また、『枕草子』に「蚊の睫」があります。

大蔵卿ばかり、耳敏(と)き人はなし。まことに、蚊の睫の落つるをも、聞きつけたまひつべうこそありしか。 (275段)

 

蚊の睫が落ちる音も聞き取れるほど耳がよい、というのです。「蚊の睫」はもともとは中国の古典が出典のようです。これで思い出すのは、次の英文。

 You could [might] have heard a pin drop.

高校の授業では、仮定法過去完了か 知覚動詞(hear+目的語+動詞の原形)の用例で出てきたのではないでしょうか。「ピン1本落ちる音も聞こえるほど静かだった」の意味です。蚊の睫は大蔵卿の聴覚の鋭さをいい、ピンは静けさを強調しています。東洋と西洋の違い、などと大袈裟なものではありません。もののたとえは、比喩の例として引いてみました。

 ところで、蚊は幼虫をボウフラと呼び、成虫になると蚊と呼びます。これもボラからブリになる出世魚ならぬ、出世虫といえるのだろうか。

 

 

そういえば、蚊帳もみなくなりましたね、と言おうと思ったら、近年ではアウトドア人気の高まりに後押しされて、キャンプ場などでは結構使われているのだとか。

なるほど。