情報がうまく伝わらない責任は、発信側にある。
わたしはいつもそう考えています。
分かりやすさということ(1) 西階段 手塚高校
高校の運動部ではインターハイ予選、新人戦など年に何回か競技会がある。生徒を引率した教員は競技開始前に、打ち合わせがある。その終わりに、当日の清掃分担が口頭で発表される。次のように。
女子トイレ 池袋高校。 男子トイレ 町田高校。
男子控え室 駒込高校。 女子控え室 新橋高校。
用具置き場 荻窪高校。 西階段 手塚高校。
東階段 ……
これが、疲れるのだ。たとえば、手塚高校の教員は、最初の女子トイレから、先ず清掃場所に耳をそばだてる。そして自分の高校名が呼ばれなかったら、次に言われる清掃場所場を聞き逃さないように注意する。これが西階段まで続き「手塚高校」と呼ばれるまで緊張を強いられる。やれやれやっと「手塚高校」と呼ばれて安心したときには、すでに清掃場所の音声は消えている……。仕方がないので、隣の教員に「今どこって言いましたか?」
この連絡方法では清掃場所を聞いて覚えて、次に自分の学校名が呼ばれるかどうか気を張っていなければならない。「自分の担当かも知れない場所」を毎回覚えておかなければならない。これが疲れるのだ。逆にしたらどうか。
池袋高校 女子トイレ。 青葉高校 男子トイレ。
駒込高校 男子控え室。 新橋高校 女子控え室。
荻窪高校 用具置き場。 手塚高校 西階段。……
これなら自分の学校名が呼ばれるまでさほどの緊張はいらない。銀行で自分の名前が呼ばれるのと同じで、週刊誌を読んでいても自然に聞き取れる。不思議なことに、聞き取りにくくて今なんていう名前が呼ばれたのだろうと不安になっても、向かいの人がスタスタとカウンターへ進んでいる、そんな光景は病院でもしばしば目にする。
「……。 手塚高校 西階段。……」これならわかりやすい。
ほんの発想の転換だ。分かっていることを先に述べ、知りたいことを次に述べる、つまり、旧情報の次に新情報を出す。コンテストの結果発表と同じだ。
「優勝は (しばしの静寂) ウサギさんチーム!」
この順序だから会場が沸き立つ。その次に「ウサギさんチームが優勝しました」と続けると、ウサギさんチームが立ち上がってぴょんぴょん大喜び。
サービス部門ではさすがに行き届いている。たとえば、0120の自動案内で電化製品の修理を頼もうと電話すると、
修理は1を、料金のお問い合わせは2を、ご使用法のお尋ねは3を、この案内をもう一度お聞きになりたい場合は0を押してください。
と用件とその番号の順で親切でとてもよく分かりやすい。そんな経験はだれにもあるはず。この親切がプロの仕事というものだと思う。
いやあ、まさにこのとおりですよ。
以前、この「わかりやすさ」についてひどく共感/納得した文章がありまして、改めていま、ここに引いておきます。
山形浩生さんのエッセイ。
いま読んでも共感です。
あ、「わかりやすい」といえばこの人ですよね。