こういうときこそ、先人の知恵、過去の記録を参照すべき。
先人が陥った過ち・苦しみを活かしましょう。
このところ、新型コロナウイルスのニュースが流れない日がない。やはり感染病は怖い。ちょうど読み始めた昔の本、佐藤春夫『實さんの胡弓』大正15年発行に、現在と同じような状況が記されている。
私の父は、實さんに神戸から船に乗るやうに勧めた。神戸からならば道連れもあったのだ。けれども實さんは、アメリカへ行く前に東京でも見たかったのかわざわざ横浜から船に乗った。生憎なことには、そのあとすぐに横浜でコレラが流行しだした。實さんの船がサンフランシスコへ着いた時には、神戸から乗った人たちは直ぐ上陸を許されたけれど、横浜から乗った人だけはたしか二月近くも船の中に留めて置かれた。實さんもアメリカの市街を目の前に見ながら上陸はさせて貰へなかった仲間であった。
(佐藤春夫『蝗(いなご)の大旅行』所収)