『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』、森達也、集英社新書、2007年

森達也の軽い読み物。
童話にからめて世相を語る、というコンセプトだが、
はっきりいって失望した。
好意的にとらえるなら、
「物を書いて食べていく、ということはこういうものも書かなければならないのか…」
という物書きの悲哀のようなものを感じた。
ぼくは森達也のファンだけど、それでもこの内容は…。
できの悪い童話のパロディ集、というのが正直な感想だ。

ただ、そうはいっても勉強になったところもあるので、
それはメモしておこう。

・パン
音楽好きの陽気な神なのだが、なぜか昼寝を邪魔されると怒り狂い、人と家畜に恐れによる混乱をもたらす、
との伝説から、「panic」(恐慌状態)という言葉が生まれた。
パンが笛を吹いた後に、アポロンは竪琴を奏で始めた。その音色の差は圧倒的で、
誰もがアポロンの勝ちを確信したが、パンの崇拝者であるミダスだけは、その結果に納得しない。
その様子を見た。アポロンは、こんな男に人間の耳はもったいないとばかりに、ミダスの耳を変えてしまう。

コウモリが物体の位置を知る方法 … エコロケーション(echolocation), 反響定位

イソップ
様々な文献に共通するのは、とにかく彼は醜悪な容貌だったということだ。
両眼はやぶにらみで唇は異様に分厚く、鼻は低く太鼓腹で背骨は大きく湾局し、
さらには強度の吃音で、他者との会話も困難な男だったらしい。

美女と野獣」のベースとなった話の一つは、
2世紀のローマ時代にアプレイウスが書いた「アモールとプシケー」だといわれている。


美の女神の息子アモールはある王の末娘プシケーに恋をする。
しかし神であるため、その素顔をプシケーに見せることは禁じられている。
そこでアモールはプシケーを山奥の宮殿に住まわせ、暗闇の中でしか彼女に会おうとしない。
あまりにも醜い姿だからだろうと2人の姉にそそのかされたプシケーは、とうとうある夜、
ろうそくの炎を寝ているアモールの顔にそっと近づける。
顔を見られたことに気が付いたアモールは、何も言わずに宮殿から立ち去ってしまう。


彼の外見ばかりを気にしていた自分を恥じたプシケーは、
その後、様々な困難を克服し、最後に2人はもう一度結ばれる。


この物語が、18世紀にフランスのルーアンに生まれた、
ボーモン夫人(ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン)によって、
美女と野獣(La Belle et La Bete)」という新しい装いで登場する。

アンデルセンの自己顕示欲と功名心
まったく面識がなくても有名人ばかり訪ねまわった。
グリム兄弟をいきなり訪ねて兄のヤコプを当惑させ、長く滞在してディケンズを困らせた。
生涯独身だったが、恋した女性の一人のルイーゼ・コリンに自伝の原稿をラブレター代わりに送りつけ、
男女を問わず友人たちには自分の身の上を語る手紙を送り続けた。

・「ハザード」と「リスク」の違い 
―『環境リスク学―不安の海の羅針盤』,中西準子日本評論社,2004年
 「ハザード」 … 単純な毒性の強さ
 「リスク」 … 毒性の強さ × 摂取量

ドン・キホーテの異常なまでの暴力性,そしてその報復として受ける過剰なダメージは,
スペインという国家をモチーフとしたため。