高村薫は好きな作家だ。
その社会派的なスタンスも好きだけど、
なによりぼくが惹かれるのはその硬派な文体だ。
普段は礼儀作法や慣習にうるさいけれど、
困った時には黙って手を差し伸べてくれる親戚の伯母さん――
そんな外見通りの文体に惹かれてしまうのだ。
それは例えば梅田について書かれたこんなところ。
…間もなく、数十万の貧しい勤め人が汗を垂らしながら雪崩れ込んでくる。
昼になると、ビル街のど真ん中に、揚げ物の脂や、
うどんやソバの臭いが立ちこめる。
無秩序と図々しさと無神経の、胃袋みたいな街が目覚める。そこで起こる事件なら、
そこにふさわしいやり方というものがあって当然だ。
押し込み方も、脅し方も、逃げ方も、東京と大阪ではやり方が違う。
無造作で、不細工だが奇抜で、
どうしようもなく短絡的で衝動的だが、痛快無比の大団円。
…新しい「仕事」のために大阪へ移る決心をしたとき、
住まいはこの地区以外に考えなかった。
憎悪が必要だったからだ。
生きるための仕事には、憎悪がなければならない。
…壁は越えるためにあり、鍵は開けるためにあり、警備は破るためにあった。
うーん、カッコいいなあ…。
若干気負いが感じられなくもないけど、
こういう短くて硬派なセンテンス、大好きです。
あと、BL的な展開にゲッ!?となりました。
やはり女性はこういうの好きなのでしょうか。
ぼくは全然リアリティを感じなかったのですが。
- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/01/28
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