『悪夢機械』、P.K.ディック、新潮文庫、一九八七年

ディックの短編集。
映画『マイノリティ・レポート』の原作も収録されている。


やっぱりディックは面白い!
50年前に書かれたものだけど、今読んでも充分楽しめる。
ぼくにとってのSFは、エンターテイメントでありながらも
ときにひどく哲学的な問題を扱っており、
思索の材料としても興味深いものだ。
よくいわれることだけど、
ギブスンの『ニューロマンサー』やディックの世界は、
インターネットなどの技術の発展によって、
書かれた当時よりも今の現代の方が現実感を持ってると思う。


特にぼくが興味深く読んだのは
「くずれてしまえ」(Pay for the Printer)という話で、
これはあらゆるものをコピーすることができる、
「ビルトング」(biltung、かな?)というエイリアンの能力に
頼り切ってしまったため、
自分では簡単な道具も作り出すことができなくなってしまった人間たちの話だ。
イデア一発の作品だけど、
これ、もう少し深めると面白くなるんじゃないかな。
あとは、ディック世界ではおなじみのようだけど、
超能力が効かない能力、「反能力」の考えはやっぱり面白いなあ。


そういえば、「出口はどこかへの入口」の中で、
「実用的な価値が高く、高収入を望める分野」からもっとも遠い学問分野として、
ソクラテス以前の宇宙論と宇宙開闢論」が挙げられているのが
少々感慨深かった。
思えば、ぼくもこれに近いことを研究してたんだよなあ…。
自分ではわかってたつもりだけど、
あらためてこう書かれると考えさせられるものがあるね。

悪夢機械 (新潮文庫)

悪夢機械 (新潮文庫)