- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/07/28
- メディア: コミック
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『夕凪の街、桜の国』を読んだときは衝撃を受けた。
被曝を主題としているが、安易な反戦・反核に終わることなく、
そこには被曝の後遺症をめぐる深い絶望と新しい世代への希望が同居していた。
被曝をめぐって語られる内容にはもちろん心を動かされたが、
作者の漫画家としての確かな力量に衝撃を受けた。
画力、画面構成力、ストーリーテリングなど、
どれをとっても熟練の手によるもので、これは新人には描けない漫画だな、
と感心したのをおぼえている。
作者にとって不遇の時代(と言ってしまっていいのだろうか)が
見事に実を結んだのが『夕凪の街〜』だった。
この『長い道』は作者の不遇の時代の作品。
4ページの連載作品を集めたもので、
女好きの自堕落な男とのどかだが地味な女の同棲生活が描かれる。
簡単にいってしまえば業田義家の『自虐の詩』の世界だが、
『自虐の詩』の後半のような劇的な展開はなく、
この2人の生活がただただ淡々と描かれる。
それがいい。
事件は何も起こらないが、
そうした繰り返される日常の中でこそ、
「繊細な感情」というものが浮かび上がってくるのだ。
いとおしい作品です。
また、こうの史代の安定したタッチは連載を通して変わらない。
このことは、連載開始時に既に自分の筆法を身につけていることを示す。
構成力もさすがで、『夕凪の街〜』は
描かれるベくして描かれる作品であることがわかる。