この漫画は、あなたにとって人生の一冊になるかもしれない漫画だ。
人生に悩める人、毎日を辛いと感じている人はいますぐこれを読むといい。
『天』は、一言でいえば「麻雀漫画」。
連載していた雑誌も近代麻雀で、
主人公の「天」が打つ破天荒な麻雀と、そのライバルたちとの闘いが描かれる。
―15巻までは。
16巻から最終巻までの3冊は、それまでとはまったく異なった話が展開する。
それは、「人はどう死ぬべきか」という問題、
つまり「安楽死」の問題が突然語られるのである。
『天』の主人公は題名通り「天貴史」だが、
死んでいくのは「赤木しげる」という天才雀士。
アルツハイマーに罹り、「これまでの自分を維持できないことを悟って」、
安楽死ということで自らの命を絶つことを決意する。
その死の前に、以前麻雀で闘った8人とそれぞれ個別の会見を行い、
その対話が3冊延々と続くのだが、これが実に素晴らしい。
自ら納得して死を選んだ人間と、
その死をやめるよう説得する人間の対話という構図は、
これはどうしてもソクラテスとその弟子たちとの対話篇、
『クリトン』を思い出させる。
実際に、この3冊の内容は、
「よく生きるということは、よく死ぬということだ」、
「哲学とは死の練習である」と言ったソクラテス
(あるいはそう書いたプラトン)の思想に通ずるものがあるような気がする。
それにしても、おそらく『天』という漫画は福本伸行自身にとって
大きく成長することができた漫画だろう。
連載漫画にはよくあることだが、キャラクターのタッチも連載開始当初と
この終わりの頃とでは全然違う。
いまぼくたちが「福本伸行のキャラクター」と聞いて連想する、
妙に顔が角張っていて、鼻がトンガッているあの造形はこの漫画で確立した。
内容的にも、はじめの頃のほのぼの麻雀漫画から
心理戦として麻雀を描くようになり、
『天』を読むと作者の足跡を辿ることができる。
この漫画は友人から薦められたのだが、
アルバイトに向かう途中でこの漫画を買って電車の中で読むうちに、
ぼくは泣きそうになったのをおぼえている。
この友人に感謝している。
そして、すべての悩める人に贈りたい本。
少しだけ生きることに前向きになれる本です。
『天』は赤木しげるの晩年を描いたものだが、
その後、この『天』から生まれたあまりにも魅力的な人物、
赤木しげるの若い頃を遡って描いた漫画が描かれている。
それが『アカギ』で、これは現在連載中。
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