『セックス障害者たち』、バクシーシ山下、幻冬舎アウトロー文庫

セックスをどう考えればいいのか、いまだによくわからない。
人並みにセックスは好きだし、この年齢にしてまだまだ興味は尽きないけど、
どこか後ろめたいような気持ちを抱いてしまう。


「セックスは愛の結晶だ!」なんて時代錯誤な少女趣味的にも思わないし、
「セックスと恋愛は別。風俗行ったり、肉体関係だけなんてのは浮気に入らない」
ともスパッと割り切れない。


この本は、エグイAVを撮るAV監督バクシーシ山下の語りによる撮影記録。
どれくらいエグイかというと、
「ドヤ街のホームレス男に男優をやらせたり、
包茎のM男のチンポの皮をAVギャルに食わせたり、
海外で小人を使って撮影したり」するくらい。
レイプ、スカトロは普通らしい(レイプは「やらせ」だが)。

AV業界に入って、初めて僕は他人に自分の話ができるようになりました。
それまでの過去は、とりたててて喋ることでもなかったんです。
この業界に入って、後ろ指さされる自分が嬉しかった。
そしてAV業界には、変態たちが、
わざわざ差別されるために日夜集まってくる。
わざわざ人目に曝されにくるんです。


小便飲んだり、ウンコ喰ったりだけが、変態じゃない。
人前で堂々と股開いてセックスする女も変態なんです。
AVに出るヤツはすべてそうだと僕は思います。


そして僕は、憩いの場所を提供するふりをして、彼らを見世物にしています。
そして、そのことによってまた差別されるのなら、
僕はとても嬉しいです。

バクシーシ山下はこう書くが、これは露悪的に振舞っているのではなく、
恐らく偽らざる気持ちなのだろう。
というのも、解説で高橋源一郎が述べているように、
山下の本書の叙述は「基準」「遠近法」を欠いており、
撮影現場を、幻想・思い込み・思い入れなしに淡々と書いているからだ。

この女の子のセックスって、全然気持ちよさそうじゃないですから。
人間がするセックスは気持ちよくない場合の方が多いじゃないですか。
だからこそ代々木忠がカリスマになれる。
でも、本来はセックスって気持ちよくないものなんじゃないかと。


AVって、普通はこれと逆を目指しますよね。
気持ちよさそうなセックスとか。
でも僕は、これがセックスの本来の姿なんじゃないかと思うんですよ。
そんな、女は誰でもチンポを入れればヒイヒイ言うとか、
そんなもんじゃないだろうし。
そういう意味では、これはすごく現実的な映像で、
十分オナニーのオカズになると思うんですけどね。

高橋源一郎は山下の作品について「完全に遠近法のない世界」と述べるが、
ぼくはセックスを「単なる肉の運動」とする見方も一つの見方だと思うので、
高橋源一郎に賛成はしないけど、
セックスに関して、述べられて当然だったけど
あまり述べられてこなかった見方を圧倒的な方法で提示しているのは事実だ。
そう、この本は山下の「遠近法のない」文体の効果もあって、
ドキュメンタリーとしてもとても面白いのである。
処分しようと思って読み返したら、あまりに面白かったので残しておくことにする。


そして、高橋源一郎は『あ・だ・る・と』という、
この本とソックリの小説を書くことになるのだった。

セックス障害者たち (幻冬舎アウトロー文庫)

セックス障害者たち (幻冬舎アウトロー文庫)