『山下敦弘短編集』、『どんてん生活』、『ばかのハコ船』、監督山下敦弘

山下敦弘は、以前から名前は耳にしていたが、
実際にフィルムを観る機会がなかった。
ずっと興味はあったので、今回、一気に3作品を観た。
結論から先に述べると、3作品とも無名の俳優を配し、
低予算で制作されながらも映画的文法に則った作品で、
興味深く楽しむことができた。


長編である『ばかのハコ船』と『どんてん生活』は
典型的なダメ男の日常を描いた作品で、
斬新なカット割やカメラワークに頼ることなく、
淡々とカメラに収めることで不思議なおかしみを生み出している。
小寺智子扮する『ばかのハコ船』のヒロインが本当にいい娘で、
みていて切なくなってしまう。
決して美しい容貌ではなく、外見に惹かれたわけではないのだが、
けなげに一生懸命生きようとする姿がとてもいじらしく、心を打たれた。
実際の生活でも、こういう瞬間に恋は生まれるのだろう。
それにしても、山本浩司は本当にダメ男をやらせるとピカ一だ。
小寺智子とは対照的に、そのダメぶりに観ていて腹が立ってくるほど。


こういった日常的な世界を、
単なる情けない男のだらしない言い訳の垂れ流しに陥らずに、
リアリティをもって描き出せるのは、
俳優の演技力と監督の演出がしっかりしているから。
その意味で、充分鑑賞に耐える作品だ。


宣伝文句や批評家の言葉では、山下敦弘は「20代のジャームッシュ」、
「日本のカウリスマキ」なんて表現がされているけど、
こういった言葉は実に的確。
こういう風にいわれるのはもちろん名誉なことだけど、
反面、強力なオリジナリティが感じられない、
ということでもあるのだ。
特に、「日本のカウリスマキ」はヘンだよな…。
そもそもカウリスマキが「フィンランド小津安二郎」なんだから、
結局「日本のカウリスマキ」って小津のこと? 逆輸入?


実は、今回観た3作品の中で、ぼくが一番面白かったのは『初期短編集』。
荒削りなんだけど、斬新で力強く、
今後の成長が楽しみになるような作品集だった。
つげ義春の『リアリズムの宿』も撮ったみたいだから、それに期待したい。
多分、たくさん面白い映画が撮れる監督だと思う。


あと、音楽は赤犬
どんなことになるかと思ってたんだけど、
予想に反して、BGMとして効果的な音楽でこれはこれでよかった。


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