『海辺のカフカ』、『村上春樹編集長 少年カフカ』、村上春樹(1)

なんだかんだいって、村上春樹は好きな作家だ。
文体重視の初期三部作もいいが、
世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読んで、
ぼくは唸ってしまった。
そして圧倒的な『ねじまき鳥クロニクル』!
あまりにも鮮やかな、メタファーによる物語の紡ぎ方に脱帽した。
この本でぼくは「物語における象徴性の解釈の仕方」のようなものを
理解したように思う。


安西水丸とのコンビで綴られるエッセイも大好きだ。
くだらないことをダラダラと書いているものもあるが、
しばしば窺える、権力的なものに対する反骨精神・在野精神に
ぼくは強く共感していた。


一方で、村上春樹自身「リアリズム系」と呼んでいる
ノルウェイの森』群の小説にはあまり興味がない。
あの小説があんなに売れたのって、本当に不思議だと思う。


村上春樹は好きな作家だったが、
アンダーグラウンド』以降、急速にぼくは興味を失った。
というのも、『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』で
展開される主張が少々お粗末なものに思えたからだ。
社会的・政治的な問題には注意深く言及を避けてはいるが、
それはノンポリを装っているだけ、と
ぼくは村上春樹の立ち位置を理解していたが、
そうだとするならこの2冊のインタビュー集は
あまりにも無防備で軽率な試みであるように思えたのだ。
結局、ぼくのそれまでの彼の立ち位置に関する理解は深読みで、
単に社会的に幼稚なだけだったのか、と失望してしまった。
いまにして思えば勝手に自分の思い込みに
振り回されていただけかもしれないが、
とにかく、『スプートニクの恋人』なんかは
まったく読む気にならなかった。


しかし、『海辺のカフカ』。
新しく知り合った「ハルキ読み」に、この小説は面白い、
と薦められたので読んでみた。
予想以上に面白かった、というのが素直な感想だ。
ぼくの好きな「象徴性の強い」系列の小説で、
とにかく寓意に満ちている。
読んでいる間は一つ一つのメタファーが表しているものを
解き明かそうとしていたが、
今となってはそれにはあまり興味がない。
そうではなくて、この小説全体が言おうとしていること――
――おそらく、短い言葉では説明しきれないなにか―
―について考えている。
というのも、この小説を読んで、
ぼくは物語に対して新しい接し方を学んだような気がするのだ。
(続く)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

少年カフカ

少年カフカ