『ランド・オブ・ザ・デッド』(4)

A:
例えば『エイリアン』。
H.R.ギーガーデザインの禍々しいエイリアンに目を奪われるけど、
あれも単なるモンスターSF映画じゃない。
あれはセックスへの根源的な恐怖を描いた映画なんだ。


t:
うん?


A:
はじめのほうで頭にカブトガニみたいなエイリアンが男の顔にへばりつくけど、
あれはクンニリングスのメタファー。
さらに、咽深く何かを差し込まれるのは
もちろんフェラチオを意味してるわけだし、
エイリアンが人間に卵を産み付けるのは、
言ってみればレイプしてるんだな、人間を。
男も女も関係なく。


t:
………。


A:
そして、そのエイリアンを葬るのが
女性のシガニー・ウィーヴァーだ、というのが面白いね。
ゴリゴリのフェミニストが喜びそうな映画だよ、『エイリアン』は。
そういえば、人間達がエイリアンに襲われるのを見たアンドロイドが、
興奮してシガニー・ウィーヴァーの口に
丸めた週刊誌を無理矢理ズコズコ出し入れするシーンがあるんだけど、
その丸めた雑誌って、なんと「平凡パンチ」なんだよなぁ…。
ブレードランナー』でもそうだったけど、
当時の日本って、
やっぱり典型的なオリエンタリズムの対象だったんだろうね。
ま、いまでも『ロスト・イン・トランスレーション』なんて
サイテーな映画もあるけどさ。


t:
……なあ、お前、会社でもそんななの?


A:
なんだよ、いきなり?


t:
会社で孤立するぞ、いきなりそんなこと喋りだしたら。


A:
いきなり核心を突くな。もう孤立してるからいいんだよ。
他には『エクソシスト』。
あれも、近年「ディレクターズ・カット」が出て、
ショッキングな映像が収められて話題を集めたけど、
あれもいい映画だよ。


t:
というと?


A:
信仰心と人生の虚無と……魂の尊厳についての映画だね。


t:
これまた大上段に構えたな。


A:
エクソシスト』については、いずれきちんと述べたいんだけど、
キリスト教って、『ヨブ記』以来、
逆境で信仰を確かめるっていう伝統がある。
あの映画は背景にその伝統があるんだな。
悪魔にとりつかれてしまう女の子も、そして悪魔と戦う若い神父も、
何も悪いことはしていない。
しかし、それでも悪魔は取り付いて、そして若い神父は命を落とす……
この映画のうまいところは、この神父が信仰を失いつつあるところ。


この神父、最終的には死んでしまうんだけど、
でも、悪魔との戦いで信仰を取り戻したんじゃないか、とか、
悪魔はなぜあの少女に取り付いたのか、とか、
いろいろ考えると本当に面白い。
もちろん、そんな深読みを許すくらいに
映画がよく出来てるってことなんだけど。


t:
そこだよ!
俺が言いたいのは!

A:
……どこ?
(…まだ続く。)


エクソシスト ディレクターズカット版 [DVD]

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