『THE LATIN KICK』, Gerardo Frisina, Schema, 2005

待望のGerardo Frisinaの3rd!
期待は尋常のものではない。
なにしろ、あの傑作『Hi Note』の次作。*1
前作を上回る完成度の高さ・革新性を期待するのはファンとして当然だ!


……と、レコ屋からの帰り道、1人舞い上がっていたのだが、
感想としては、満足と不満が半々といったところ。


#1の「The Gods of The Yoruba(Belem)」は、
ベースのみのイントロからもうカッコいい。
テーマははっきりいってリフ以上のものではないが、これだけで充分。
「The Latin Kicks」の題名通り、ラテンハウスの4つ打ち
2コーラス目にHelena De Pinoのヴォイス(ヴォーカルではない)が
ホーンにかぶさるが、このあたりは前作にはなかったアプローチで、
否がうえにも期待は高まる。


#2の「Bite The Nite」は一聴すると普通のキューバサルサだけど、
リズムパターンとして組み込まれている
16分のボンゴとvibeがいいアクセントになっていて
モダンなラテンミュージックになっている。


そして#3「Cortante」がこのアルバムのクライマックス。
少々粗いモントゥーノをリズムパターンに組み込んだ
サルサっぽいラテンハウス。
キューバ人のトランペッター、Hendrixon Mena
全編でラテン丸出しのソロを吹くが、この曲は特にそう。


そして、ラテンなポリリズムが楽しい#4では
Helena De Pinoのヴォーカルが楽しい曲。
前作『Hi Note』でも思ったけど、
ピアノのLuigi Bonafedeはセクション、ソロともに
ツボを心得たいいプレイをすると思う。


と、4曲目までは順調に聴けるのだが……残念ながらそこまで。
#5も悪くはないけど、それから後の曲には特筆すべきものはない。
もっとはっきり述べるならば、ちょっと失望した。


失望の理由は、単調さ。
前作『Hi Note』を、ラテンの要素を巧妙にブレンドした
ヴァラエティに富んだクラブジャズだとするなら、
本作はちょうど真逆の関係。
ハウス、リズムパターンのループ、音響処理などの
クラブミュージックの要素をブレンドしたラテンジャズ。
この試みは否定しないけど、単調になってしまったのは、
ベースとなったリズムが全部ラテンハウスになってしまったこと。
それこそ『Hi Note』はハウスあり、ブレイクビーツあり、ボサあり、
なんだかよくわからないリズムあり……と、
1曲1曲が面白かった。


Gerardo Frisinaがラテンへの偏愛は『Hi Note』を聴けばわかる。
だからといってそれを全面に押し出されると、
それほどラテン好きでないぼくなんかはちょっと退屈なんだな。
確かに、前作に比べて「ラテン」という統一感は、あるんだけれど。


それと、後半は明らかに曲のクォリティが低い。
よくいえば実験的に聞こえなくもないけど、
#12は音楽というよりもトラックを作っているようにしか
ぼくには聞こえない。
雑誌『remix』#176(2006.2)によると、
もともとクラブ・フロア向けに4曲だけ作るつもりだったのだが、
「アイデアがどんどん出てきた」のでアルバムにまでまとまったらしい。
うーん……もっと煮詰めて欲しかった。
それで、#1,4,8がカヴァー。
特に#1はホレス・シルヴァーの曲で、元々6/8なのを4つに変えたらしい。
#8「The 7th Day」はフレディ・ハバートの曲で、これも変えてるみたい。


同誌のインタビューによると、
次作のコンセプトは出来ていないけど
「アイディアは火山のように溢れている」とのこと。
次作にも期待! …してますよ、ホントに。


The Latin Kick

The Latin Kick

ラテン・キック

ラテン・キック

*1:『Hi Note』についてはAuggie 2005.5.13参照。ここではGerardo Frisinaをバンドとして書いてるけど、個人のプロデューサーでした。訂正します。