『国家の品格』(3)、藤原正彦、新潮新書、2005年

昨日の続き。

他に藤原正彦が提示するテーゼとして、次のようなものがある。

「論理」だけでは世界が破綻する
 ① 論理の限界
 ② 最も重要なことは論理で説明できない。
 ③ 論理には出発点が必要
 ④ 論理は長くなりえない(短文になるということ)

これについても、ちょっとみてみたい。
まず、①の根拠。

論理的に得られた結論は磐石ではない。
いったん論理が通るやホッとして、
往々にして他のもっとも大切なものを忘れたり、
他の解決法に目がいかなくなったりするのです。
論理は魔物と言えるでしょう。

言えないよ。
例えば、「論理」と一口にいったって、
「学問」「ビジネス」「政治」「人間関係」など、
場面場面でさまざまな「論理」がある。
例えば、「恋愛関係」を「ビジネス」の論理で突き止めていったって
上手くいかないのは当然だ。
思うに、藤原正彦は、

「論理」という言葉で世の中のあらゆる営みを説明できる、
と考えるのは間違いだ

と思ってるみたいだけど、
ぼくに言わせればそれこそ他者への思慮、想像力が足りない。
誰もそんな風に極端に考えてないよ。


場面場面で考えれば、まず「論理」がもっとも信頼できるもののはずだ。
「論理」が上手くいかない場面は、
非常に限られた場面の、本当に最終的な局面だ。
極めて限定された状況でのみ、
「論理の限界」という言葉はあてはまるかもしれない。
藤原正彦だって数学者なんだからそんなことはわかってるはずなのに、
少々表現が無防備すぎる。


②の「もっとも重要なことは論理では説明できない」について。
これに関して、藤原正彦
「人を殺してはいけない理由」と「人を殺してもいい理由」は、
同じくらい論理的に説明できる、としている。
で、その最終基準は説明できないから、
「人を殺すのは悪いから悪い」としているけど、
それでも、その際に判断はしているんだから、
その判断基準は示せるはずだ。
藤原正彦の書き方だと、この最終的な判断は
感情でもきまぐれでもなんでもいいことのように聞こえる。


他にも、

民主国家がヒトラーを生んだ。
ワイマール体制は極めて民主的であった。
日本も大正デモクラシーなどで民主主義が進んだが
ファシズムを生んでしまった。

などは、典型的な誘導。
ドイツとか日本のような例外を拡大して、
それがさも一般的なことであるかのように述べている。
ここから言えるのは、
「民主主義は衆愚政治に転化し、
 それがファシズムに至ってしまう可能性がある」
ということだけだ。
いわば民主主義の危険性だけ。
でも、危険性のない政治体制なんてないし、
チェック機能によってその危険性は下げられるんじゃないか?
民主主義や資本主義が「万能」だなんて本気で信じてる人はいないだろう。
いくつか短所もあるけど、他の政治体制に比べて、
現段階では長所が短所に優る点が多い政治体制であるから
採用しているにすぎない。
独裁政治が上手くいく可能性と、
民主主義政治が上手くいく可能性、どっちが高いと思う?


批判ばかりしたけど、素直に賛成できるところもある。
実はぼくがこの本にこだわりつづけるのもそのためだ。
フロイト主義者なら嬉々として分析し始めるだろうが、
ぼく自身、思考を放棄すると
藤原正彦と近いところに逝ってしまいそうな予感があるのだ。

(国際化の促進、といいますが)
公立小学校で英語など教え始めたら、日本から国際人がいなくなります。
英語というのは話すための手段に過ぎません。
国際的に通用する人間になるには、
まずは国語を徹底的に固めなければダメです。
表現する手段よりも表現する内容を整える方がずっと重要なのです。
英語はたどたどしくても、なまっていてよい。
内容がすべてなのです。
そして内容を豊富にするためには、きちんと国語を勉強すること、
とりわけ本を読むことが不可欠なのです。

この考え方には全面的に賛成だ。

・フランスのように「真のエリート」養成のための教育が必要。
・「家族愛」「郷土愛」「祖国愛」この3つが固まった上で、「人類愛」
ナショナリスト ≠ パトリオット

なども、もっと詳述してほしいけど基本的に賛成。


また、日本語はオノマトペが豊富であり、
虫の声を聞いて「あのノイズは何だ?」などというアメリカ人に会うと、
「なぜこのような奴らに戦争に負けたんだろう」と思ってしまう話は、
エピソードとしては面白い。
村上“ポンタ”秀一も、
「外国の奴らは練りわさびとおろしわさびの違いもわからない。
 そんな奴らに繊細さで負けるわけがない」
なんて言ってるし、
こういう考え方はぼくも好きなんだけど、
国家の品格』のようなイデオロギーを主張する本で
述べる話としては不適切だろう。


「国家」と「民族」の区別もついてない。
題名の時点で底の浅いイデオロギー称揚本だってことがわかる。
大和民族の品格」ならまだわかるけど。

他者への視点のない、想像力の欠如したイデオロギー称揚本

この本の紹介はこの一言でいいんじゃないかな。
はまぞう」で検索すると一緒に渡辺昇一の本も上がってくるのが象徴的。


国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)