『国家の品格』、藤原正彦、新潮新書、2005年

好きな物書きがダメになっていくのをみるのは辛い。
藤原正彦は、友人に薦められて『若き数学者のアメリカ』を
読んで以来のファンだ。
何より、自分の状況を相対化できる視点をもち、
それを人に面白く伝えることができる文章が好きだった。


『若き数学者のアメリカ』は傑作だ。
小田実の『なんでもみてやろう』、小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』、
伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』と並ぶ、
若者の海外旅行日記として読みつがれていくだろう本だと思う。
(あと、山下洋輔の『アメリカ乱入事始』は破壊的な面白さがあるけど、
 当時の山下洋輔は若者というほど若くはないので除いておこう)
勧めてくれた友人は「この本を薦めて失敗したことはない」と言っていた。
ぼくも面白い本を尋ねられたらとりあえずこの本を薦めるのだが、
友人と同じく、ぼくも「この本を薦めて失敗したことはない」。


確かに、作者の藤原正彦は自尊心が高く、
ややガンコで頭が固そうではあるが、
それは礼儀や伝統を守り、自律の精神・責任感に重きを置いているからだ、
と自分を納得させていた。


しかし、この本はひどい。
国家の品格』という題名からやな予感はしていたが、
やな予感どおりの本。

第一章 近代的合理精神の限界
第二章 「論理」だけでは世界が破綻する
第三章 自由、平等、民主主義を疑う
第四章 「情緒」と「形」の国、日本
第五章 「武士道精神」の復活を
第六章 なぜ「情緒と形」が大事なのか
第七章 国家の品格

本書の内容は目次から連想される通りのもの。
その意味で、目次だけ読めば充分かも。
安易なグローバリズム批判、
最近のライブドア村上ファンドによるM&A批判、
そして「自然への感受性」、「もののあわれ」、「惻隠の情」など、
日本独特の精神性の讃美。
自分に都合のいいところだけをつなぎあわせて、
最後に提唱するのが武士道精神。
小学校の朝礼とか、
久しぶりに会った親戚のおじさんの話としてならまだ我慢できるかも。


だが、藤原正彦にはこんな本を書いて欲しくなかった。


『若き数学者のアメリカ』を好きな人は読まない方がいいかもしれない。
ぼくは、次の藤原正彦の本は読むかどうかわからない。


国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)