『失踪日記』、吾妻ひでお、イースト・プレス、2005年

失踪したくなるときがある。
歳をとってからは、ますますその頻度が高くなる。
この作品の作者、吾妻ひでおは実際に失踪し、
しかもそれをエンターテイメントに仕立てたつわものだ。


この漫画は朝日新聞をはじめ、あらゆる媒体で絶賛されたが、
その評価は間違っておらず、ぼくも充分楽しんだ。
いや、「楽しんだ」という表現は適切ではないかもしれない。
「受け止めた」という方がピッタリくるか。


自分の感覚を絶対化するつもりはないけど、
誰でも一度は今の自分の境遇を捨てて
失踪したいと思ったことがあるはずだ。
それを実際にしてしまったことへの羨望が一点。
そしてそれを相対化してきちんと商品にしたところに一点。
この二点がぼくの感心したところ。


ただ、

妻が失踪したわたしを引き取りに来たところ―
―このあたり、笑えないので省略。

というところなどは、
逆にぼくは真正面から描いて欲しいところなのだ。
商品として成立させるための判断なのかもしれないが、
自身の暗闇を描いて、
立派に作品として成立させている漫画家もいるではないか、
つげ義春桜玉吉のように。


あと、いまひとつ乗り切れなかったのは、
年代的に吾妻ひでおとずれているところもあるのかもしれない。
実は、吾妻ひでおの作品を読むのはこれが初めてなのだ。


失踪日記

失踪日記