『コーヒー&シガレッツ』、監督ジム・ジャームッシュ

待望のジャームッシュの新作。
一本の長編ではなく、ショートフィルム形式で
ニューヨークのアンダーグラウンド文化を代表する人々の寸劇を綴ったもの。

ジャームッシュの新作は長いこと観てないと思って調べてみたら、
『デッドマン』(カッコイイ!)が95年、
イヤー・オブ・ザ・ホース』が97年、
ゴースト・ドッグ』(うーん……)が99年で、
実に新作は6年振りくらいになるみたい。
やはり『ゴースト・ドッグ』のショック(自他とも)が大きかったのか…
…とも思ったけど、
恐らく9.11のせいだろうね、ブランクが空いたのは。


もっとも、ジャームッシュは『10ミニッツ・オールダー』に
「人生のメビウス*1
「休憩。トレイラー。夜(Int.Trailer.Night)」で参加しているので、
完全な新作というわけではない。
『10ミニッツ・オールダー』の作品はいつも通りクールだったから
コーヒー&シガレッツ』もあまり心配はしてなかったんだけど*2
やはり、期待通りカッコいいフィルムだった。


モノクロで撮っている時点で既に勝ちは決まっているのだけど、
その画面の切り取り方とかショットのつなぎ方とかはやっぱりカッコいい。
なんでこの人こんなにセンスあるんだろ。
最高なのは、なんといってもトム・ウェイツイギー・ポップの話。
はっきりいって、何も知らない人が見たらただの小汚いオヤジです。
でも……絵になるんだよなあ、普通に会話をしてるだけなのに。
トム・ウェイツはぼくの人生の師匠。
師匠、さすがです。


で、反対にダメだったのがRZAとビル・マーレーが絡む話。
まず、ぼくはビル・マーレーの時点で
ロスト・イン・トランスレーション』を思い出してダメ、
あとは話自体がいまひとつなような。
RZA達は『ゴースト・ドッグ』つながりだと思うけど、


さて、このフィルムに9.11の影響が全く見られないことについて。
インタビューなどを確認してないけど、無関心なわけはないと思う。
スパイク・リーウッディ・アレン坂本龍一……
…9.11はたくさんのニューヨーカー達に少なからぬショックを与えた事件だ。
例えば、ウッディ・アレンは事件を知り、すぐさま献血に駆けつけたらしい。
でも、それはあくまで「個人的な」活動のレベル。
コーヒー&シガレッツ』は、ジャームッシュの「映画監督としての」
9.11へのスタンスを示しているとは受け取れないだろうか。
ブッシュの「対テロ防衛」の口車に乗るわけでなく、
思考停止の安易な「戦争反対」のシュプレヒコールに参加するわけではない。*3
スタイリッシュな文体で評価されてはいるが、
もともとジャームッシュは底辺の人々の生活を撮りつづけ、
エスタブリッシュを冷ややかに見つめるスタンスだった。
それをいまさら変える必要があるのか?
これまで通りのスタンスで、やはり底辺の生活を撮り続けること。
もしも長編の構想や資金が集まらないのなら、
短編でもいいからとにかく撮り続けること。
深読みかもしれないが、
コーヒー&シガレッツ』はそんな意思表明とも受け取れると思うのだ。


もっとも、いまやジャームッシュの友人達は
とても「底辺の人々」とはいえないくらいに
ビッグネームになってしまっており、
このフィルムが「贅沢なPV集」になってしまっているのは
皮肉なところなのだけど。

とにかく、ジャームッシュが健在で嬉しい。
これからも期待してます。


*1:これ、原題通り、「トランペット」でいいと思うんだけど。

*2:これのヴェンダースはひどかった……。『ランド・オブ・プレンティ』、大丈夫なの?

*3:以前このブログにも書いたけど、『NO WAR!!』という本に寄せられたミュージシャンたちのコメントはひどかった…。