『NANA』①〜⑬、矢沢あい、集英社

世の中には、どうしても共有できない世界観というものがある。
残念ながら、『NANA』の世界観をぼくは受け入れることができない。
趣味・文化の面では、ぼくは自分でも雑食だと思うのだけれど、
この漫画はダメだった。
理由はいくつもあるのだけれど、先に一言で述べてしまうならば、
『NANA』の書き手(=矢沢あい)が
自分の作品を客観的にみれていないところ、
自己批評的な視点が欠けているところにある
(そもそも、客観的な視点があれば、巻末のオマケマンガで、
他社の自己作品の登場人物などに「ヤザワファミリー失格云々」などと
言わせるだろうか?)。


登場人物やプロットも全くリアリティがない。
優秀なスキンヘッドの弁護士(しかもドラマー)はご愛嬌としても、
「憧れのヴィジュアル系バンドのメンバーとできちゃった結婚」って、
いつの時代の話?
もっとも、「リアリティが無い」ということはそれ自体悪いことじゃない。
肝心なのは、プロットがどんなものであれ、
それを「作品として成立させる力」なわけだけど、
『NANA』はこの点についてあまりに無防備。
というか全然意識してない。
はっきりいって、中学生の妄想をそのまま漫画にしたレベル。
みんな、矢沢あいの「キレイな絵」に
ごまかされているだけなんじゃないかな。
(ぼくはこの絵もあまり好きじゃないんだけど…。
 手足のヒョロ長さを競うなら、いっそのことモンキー・パンチの方が…)


あと、3巻のカバーの「作者のことば」に、

私は子供の頃から、リスペクトするアーティストといえば作家や画家より、常にミュージシャン。私に一番の感動と刺激を与えてくれるのは音楽だから。音楽がなければ制作意欲も湧かないかもしれない。私にとって音楽は、それ位欠かせない存在です。

なんて書いてるけど、
それなら音楽について描くとき、もう少し気を配って欲しい。
「レンは本来ギターが上手くて、ベースはてすさびだった」って、
なんじゃそれ。
中学の軽音レベルか。
ベースとギターって別の楽器でしょ。
音楽的にも、バンドで担当する役割はまったく違う。
わかって描いてるのかどうかわからないけど、
ぼくはここのとこ読んで音楽的な面でこの漫画全然信用できなくなった。
演奏の描写の面でもねえ……。
漫画で音楽の描写って難しいんだよ?
だからこそ、『BECK』の音楽描写は
エポック・メイキングなのだ
*1
『NANA』の音楽描写はまだまだ述べるに値しないかな。


で、この漫画がベストセラーってことを考えてみよう。

ベストセラーについては、内容について考えるのでなく、
なぜそれがベストセラーになったのかについて考えることに意味がある

と言われていることを考えると、
『NANA』は、女性が好きそうな要素に満ちている。


遠距離恋愛、または結ばれぬ愛
・「やっぱり結婚が一番」という思想
・自分探し
・オシャレな生活
ヴィジュアル系バンド!


軽く挙げただけでもこれくらい。
細かく探せばまだまだあるだろう。
……で、こういうのがちょっとミエミエなんだよね。
その時点でしらけてしまう。
個人的な思い込みだけど、『NANA』の支持層って、
浜崎あゆみや『Deep Love』(by Yoshi)の支持層とかぶるような気がする。
で、このミリオンセラーを生み出す層ってのが、
先の衆議院選挙の「民主党から自民党に鞍替えした有権者200万人」とも
かぶったりして……。
そう考えると、ホント落込んできます。


ブログにはあまり否定的なことは書きたくないのだけれど、
あまりにも腹が立ったので書いてみた。
この漫画好きな人はどういうところが好きなんだろ?

NANA (1)

NANA (1)

NANA―ナナ― 13 (りぼんマスコットコミックス)

NANA―ナナ― 13 (りぼんマスコットコミックス)

*1:のだめカンタービレ』もいい線いってるけど、まだまだ…