『あなたに似た人』、ロアルド・ダール、ハヤカワ文庫、一九七六年(1961)

ずっと読みたかった本。

チャーリーとチョコレート工場』の映画化に伴い、
ロアルド・ダールに興味を持ったぼくの連れに貸してもらった。

多分、古本で買ってて、本棚のどこかにあると思うのだけれど、
ちょっとあまりにカオスで探せないので、
これを機に一気に読んでみた。

実は、小学生か中学生の頃に親の影響で
阿刀田高やら何やらを貪り読んだ時期があって、
短編にはちょっとした思い入れがある。
いまでも、短編が下手な作家はどこか信用できない。
映画でも、ぼくはムダのない小品の佳作が大好きなんだけど、
これは短編好きが影響しているのかもしれない。
もちろん、どっしりとした長編大作も好きだけど。
*1

久しぶりの小説は実に面白かった。
最近環境が激変し、
なかなか趣味の本を読むまとまった時間が取れなかったので、
短編集というのも都合がよかった。
実際、名作短編集とされているだけある。

ぼくが感心したのは、やはり「南から来た男」(Man from the South)。
ヒッチコック劇場」や『フォー・ルーム』でおなじみだけど、
この話はやっぱり面白い。

――賭けをしませんか。
あなたのそのライターを10回連続で点火できればあなたの勝ち、
このキャデラックを差し上げます。
しかし、もし一回でも点火に失敗したら――
――あなたの左手の小指をもらいます。

でも、やっぱり映画の方が面白かったかな。
『フォー・ルームス』なんてブルース・ウィリスも出てたし。


他には、
猛毒の毒蛇が自分の体の上でとぐろを巻いてしまって、
どうにもならない状況を書いた「毒」*2もいいし、
人間には聞こえない周波数を拾い上げる機械を書いた
「音響捕獲機」(Sound Machine)、「偉大なる自動文章製造機」
(The Great Automatic Grammatizator)などは、
短編のアイデアとして定番のものだ
スティーブン・キングにも
「神々のワード・プロセッサ」って短編があったように思う)。
もっとも、「音響捕獲機」も「偉大なる自動文章製造機」も深みが足りない。
あと、不気味な「兵隊」もいい。


最後に、
「英国では執事は眼鏡をかけることも髭を生やすことも許されない」
ってあったけど、これ本当だろうか?
確かにイメージ的に似合わないけど、
実際にそんな不文律があるのだろうか。
(ちなみに、執事に一番似合うのは薄くなった頭らしい。
相原コージが『神のみえざる金玉』で書いてた。)

ちなみに、原題は”Someone like you”。
ぼくの大好きなVan Morrisonの曲名と同じだ。


ちょっと時代を感じてしまうところもあるけれど、
名作であることは間違いない。
文庫カバーはまたもや和田誠


あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

*1:だから、近年のショート・フィルム熱は嬉しい流行だ。

*2:実際は間違いだったことがわかり、辛辣な言葉を黒人医師に投げかけることになる