『悪い女 青い門』、キム・ギドク監督

ヤクザな男に付きまとわれ、
体を売って生活費を稼ぎながら絵の勉強をする女と、
その女を住み込みの売春婦として雇って民宿を経営する一家の物語。
これ、寓意的な意匠に満ちた映画だね。
主人公の女がシーレの絵を大事にして部屋に飾っていたり、
金魚を飼っていたり、対照的な女二人が主人公だったり。
そういうところが若干学生映画っぽかったりするんだけど、
かえって新鮮で悪くなかった。


物理的・精神的に、女が虐げられる様の描き方がとにかく痛々しい。
この表現にさらに磨きがかかったのが
『魚と寝る女』や『悪い男』になるんだろう。
韓国が性的に厳格な国であるため
(公開時には婚前「未」交渉が当たり前だったと思う)、
当然のように娼婦が虐げられているが、それにしても辛い描き方だ。


さて、人と人が出会えば多かれ少なかれ出来事や変化が起きるものだ。
だから、普通こういう物語では、外部からやってくる存在が
家の中に何らかの変化をもたらす様を描くのが定石だ。
テレンス・スタンプが秩序を乱し、ブルジョワ階級の欺瞞を露呈させる、
パゾリーニの『テオレマ』がいい例。
でも、この映画は娼婦が家全体を変化させるのでなく、
彼女と対照的なもう一人の女主人公*1の変化を描く。
二人の融和が結末で、
シーレの絵で予感されていた娼婦の死は訪れることなく映画は終わる。
この結末は、ジョニー・デップジュリエット・ビノシュの競演で
評判を集めた『ショコラ』に近いかもしれない。


この映画、全体として悪くはないものの、
突出している点はやはり「娼婦の被虐の描写」だろう。
ので、キム・ギドク監督が
さらにこの点をエスカレートさせていくのは正しい戦略だった。   


最後に、この映画とは関係ないけど、「はてな」の「はまぞう」でも、
Amazonの詳細ページでもそうなんだけど、DVDの発売年でなく、
もともとの公開年も記してほしい。
これ、映画を語る際に最も大事な点だと思うんだけど?

   

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*1:彼女が恐ろしいくらい短い髪であることも寓意的。