(昨日の続き)
「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」とは、
「ウェイン」町山智浩*1と「ガース」柳下毅一郎のユニット名。
命名の由来は映画オタク的な説明があるが、それは割愛。
いずれこの本について書くこともあるだろうからそのときに。
このコンビについては、菊地成孔や山形浩生のエッセイなどで知っていたけど、
文章を読んだことはなかったのだが、実際に読んだら実に面白い!
彼らが『A.I.』について語っているところを引いてみよう。
ジュード・ロウが『雨に唄えば』のジーン・ケリーのダンスをするが、
あれは『時計じかけのオレンジ』への目配せ。
ネオン街には「ミルクバー」という看板もあった。
別の息子が家に来たので主人公のデイヴィッドが追い出されるのも
『時計じかけ』と同じ展開。
飛び降り自殺を図るのも同じ。
反ロボットの人間たちが行うロボット処刑ショーは
『スパルタカス』の闘技場の処刑に似てるし、
デイヴィッドの体がズラッと並ぶのは
『非常の罠』のマネキン工場にそっくり。
テーマもキューブリック的。
「無垢な主人公が地獄巡りをする」というのは
『時計じかけ』や『フルメタル・ジャケット』と同じ話だし、
人間社会に入りたくて人間のマネをするけど受け入れられないというテーマも、
上流階級に入ろうとした男の挫折を描く
『バリー・リンドン』や『アイズ・ワイド・シャット』と同じ。*2
など。
しかし、何といっても僕が感心したのは、
『2001年宇宙の旅』との比較について。
『2001年』は、ディスカバリー号のボーマン船長と
コンピューターのHALはどちらか生き残るか壮絶な戦いをするが、
あれは地球を引き継ぐのは「人類」か「人口知性(A.I.!)」か、
という戦いであり、勝って生き残った方が
モノリスに次の段階に進化させてもらえる戦いであった*3。
で、『2001年』ではHALは負けた。
『A.I.』はその逆の人口知性が勝った世界。
『2001年』はモノリスの、『A.I.』は母の愛を勝ち取ろうとして
人間と人口知性が争う話。
『A.I.』は、『2001年』HALを殺してしまったことへの
キューブリックの罪滅ぼしだったのではないか。(ウェイン)。
キューブリックは、『A.I.』で、
人間そっくりだけど人間ではない少年を通して
「人間とは何か」を描こうとしたんだと思う。
例えばデイヴィッドの目から見ると食事は変な行為。
ところが、スピルバーグはそこに興味がなく、
あくまでピノキオの疎外感だけを描いている。(ガース)
ヒョロヒョロのエイリアンは、
アーサー・C・クラークの『失われた宇宙の旅』にも書いてある、
「ジャコメッティの彫刻のように手足のヒョロ長い宇宙人」の具象化だろう。
(ウェイン)→ それが問題。
なぜキューブリックは宇宙人を止めてモノリスにしたのか?
ヒョロヒョロの宇宙人はカッコ悪いから。 (ガース)
ラストも『2001年』に酷似。
『2001年』は、エイリアンが主人公の記憶から作り出した部屋で
ボーマン船長を接待する。*4
『A.I.』では、高度に進化したA.I.がデイヴィッドの記憶を参考に
生まれ育った部屋を再現する。
この対談、最後はグダグダになって終わるけど、
これだけで充分スピルバーグとキューブリックの
比較ができるだけのヒントは揃えてあるように思う。
*5
その他、ぼくが観て思ったことは、やっぱりこの映画長いってこと。
前半はちょうどいい速さで物語が進んでいくし、
起伏に富んでて面白いんだけど、後半に入って、
ジョーとともにヘリに乗るあたりから冗長になってくる。
そこからは観客を泣かせよう、
泣かせようと演出が過多で退屈になんだよなあ。
はっきりいって、観ている方は結末がどうなるか大体わかってるんだから、
説明は少なめで流した方がスマートだったと思う。
「ブルー・フェアリー」がどうしたこうしたっていうの、興ざめです。
『時計仕掛けのオレンジ』を思い出してみても、
アレックスが飛び降りてから洗脳を解かれるところなんて
一瞬だった気がする。
どう考えたって140分は長いよ。
しかし、まあ全体として面白かった。
「7つの言葉」をパスワードにする、というのは、
早速荒木飛呂彦が「ストーン・オーシャン」で使ってたけど、
他にも色々と引用したくなる意匠に満ちていた。
それに、単なる感動作で終わってないところが面白い。
『宇宙戦争』もそうだと思うけど、
スピルバーグはエンターテイメントとして成立していながら、
メッセージ性の濃い作品をつくれるようになってきてると思う(前から?)。
これって、浦沢直樹と通ずるものがあるかも。
でも、話の筋だけを追うと見逃してしまいそうな分、
浦沢直樹よりも巧妙かもね。
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