(昨日の続き)
では、いよいよ物語の寓意の分析に入ろう。
といっても、八木敏雄の解説をまとめるだけだけれど。
八木は、まずD.H.ロレンスが
『アメリカ古典文学研究』(野崎孝訳、南雲堂、1987)に寄せた
『白鯨』論を参考に挙げる。
(モービィ・ディックは)白色人種の最深奥に血の実体、
われわれの最深奥にある血の本質である……ことをメルヴィルは知っていた。
彼の人種が滅ぶ運命にあることを彼は知っていた。
彼の白人の魂が滅ぶこと、彼の白人の偉大な時代が滅ぶこと、
理想主義が滅ぶこと、『精神』が滅ぶことを。
そして、八木の簡潔なまとめは次の通り。
モービィ・ディックが白人の本性の象徴ないし化身なら、
その白鯨が白人の船長の指揮下に各種の人種を配した
アメリカ合衆国そのもののアイコンでもありうるピークオッド号を、
最後には沈没させてしまうということの寓意は、
かなりねじれの入ったものになろう。
しかしながら、ロレンスが白人の本性の象徴とも、
白人の「精神」の化身とも見立てた白鯨は、
白人が支配する国のアイコンでもある白人の船を沈めながらも、
全く無傷ではないにもせよ、どうやら不死身であるかのように泳ぎさる。
読み解くための道具はとりあえず揃ったように思うが、
寓意の読解はまだ一つに絞りきれない。
ぼく自身まだまとめきれていないので、今後の課題にしておこう。
一般の解説書だけでなく、学術的な研究書も読もうと思う。
他にも、読解のタネとなりそうなものを挙げておく。
『白鯨』は、19世紀中葉のアメリカでは考えられないほど、
人種的偏見から自由。
→ クイークェグとの友好はゲイ・セオリーの観点から
しばしば考察の対象となり、
イシュマエルがクイークェグの宗教をともに崇拝することは、
当時のキリスト教的倫理観からも自由であったことを示す。
『白鯨』は、物語の結末が冒頭に回帰する「円環的構造」を有している
とも考えられるらしい。
「メルヴィルの白い渦巻――『白鯨』の円環」
(高山宏、『アリス狩り』所収、青土社、1981)参照。
この考えによれば、冒頭でイシュマエルは、
「また」海へ行く衝動について語り始めることになる。
(下)巻末にメルヴィルの略年譜あり。
それによれば、『白鯨』刊行当時、売れ行きは芳しくなく、
1891年(72歳)に息を引き取ったときにも、
メルヴィルの代表作は『タイピー』だと思われていた。
名作は同時代人に理解されないというルールは
ここでもまたしっかりと適用される。
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