『MG4』、MONDO GROSSO, 2000年

ジャズ、ブラジル音楽に黒人音楽、そして2STEPへの
大沢伸一の情熱と才能が爆発した一枚。
本人自身「好きな音楽にこれまでの恩返しをした」と語る通り、
それまでの大沢伸一の仕事の集大成でもある。
このアルバムはヒットし、世間的に彼の名前が広く知られることにもなった。


JALのCMで使われ、セールス的にも成功を収めた
birdをフィーチャーした#6の「LIFE」も収録されているし、
延々とピアノとスキャットのユニゾンが続く#7のMG4BBなど、
個々の曲はどれもアイデアに溢れており、
2STEPに乗ったジャズっぽいアドリブや、
ポルトガル語のラップが贅沢にちりばめられている。


しかし、このアルバムを名盤たらしめているのは、
そのような目新しい小細工ではなく、途切れることのない緊張感である。
一枚のアルバムとしての完成度を重視する大沢伸一の強い意志が、
曲順を含めた全体のバランスを支配し、
これが『MG4』という一つの濃密な世界を創りあげている。


もちろん、細部は細部で素晴らしい。
妙にグルーヴィな#1のベースラインが納浩一だったり、
だるい#15のピアノがJAZZTRONIKだったり、
#4のリズムパターンの4ウラの不安定さが微妙で気持ちがいいなど、
その気になれば限りなく楽しめるのだが、
重要なのはそのような細部に拘泥することではなく、
緊張感に委ねることなのだ。
マンデイ満ちるの圧倒的な「STAR SUITE」まで、加速していく緊張感に、
ただただ官能的に反応するだけでよい。
STAR SUITE」のマンデイのpoetry readingを聴けば、
「俺様J-RAP」は恥ずかしくてもう聴けないだろう。
リズムに乗って英語を喋ってるだけなのに、
どうしてここまでグルーヴが出せてしまうのか。
STAR SUITE」後の#15は若干の手抜き感は否めないが、
しかし圧倒的なSTAR SUITEの後に置かれることによって、
コトの後のような気だるさのような妙な余韻を醸し出すのに成功している。


他の曲と比べてみるとBirdの歌詞が割と子供っぽかったり、
相変わらずマンデイ満ちるの歌詞は多幸症気味だとか、
ジャズっぽいのは結局ブルースとII-Vじゃないかとか、
ツッコミを入れたいところもないわけではないが、
それはこのアルバムが傑作であることを踏まえた上でのこと。
このアルバムを同時代人として聴けたことを嬉しく思う。


この作品でやりたいことをやり尽くしてしまった大沢伸一は、
「オシャレな音楽をプロデュースする人」と
レッテルを貼られたことに嫌気がさし、
ゴリゴリなハウスの方向に進むことになるのだった。
 

MG4

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