『ビーチ・ボーイズのすべて』、中山康樹、エイ文庫、二〇〇三年

ビーチ・ボーイズについて私が知っていたこと。

1.アルバム『ペット・サウンズ』は、サウンド・コラージュなどの
  スタジオ・ワークを駆使した傑作であり、多くのミュージシャンに
  多大な影響を与えた(例えば、日本盤の解説は山下達郎萩原健太
  書いているし、フリッパーズ・ギターにもその影響は明らか)。


2.ビートルズの『ラバー・ソウル』を聴いて驚いた
  ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンが、
  世紀の名作『ペット・サウンズ』を作り、
  そして『ペット・サウンズ』を聴いて驚いた
  ポール・マッカートニーが『サージェント・ペパーズ』を作った。


以上の二つが、この本を読むまでの私のビーチ・ボーイズについてのすべての知識だった。
ので、アルバムも『ペット・サウンズ』しか聴いてない。
その『ペット・サウンズ』の印象は、深く聴きこんでいないせいかもしれないが、
「曲も悪くなく、アイディアも感じられる作品だが、時代を感じてしまう作品」だった。

今でもその感想は大きく変わらないが、この本を読み、
このバンドに対して新鮮な興味が湧いた。


全アルバム、全353曲の解説という、中山康樹おなじみのスタイル。
この評論は、中山康樹ビーチ・ボーイズに対する、
文字通り愛憎に満ちたものである。
ブライアン・ウィルソンという天才と、
その音楽性に惹かれた人間(中山康樹)の弱みとでも呼ぶべきものが綴られている。

ビーチ・ボーイズビートルズにおける驚くべき共通点は、
あきらかにスケジュールに追われて書き飛ばしたような曲でさえ
一般の水準をはるかに越えるものになっていることだ。
才能のちがい、といえばそれまでだが、
ブライアンやジョンとポールはあきらかに「なにか」を知っていた。
ブライアンに関して言えば、ハーモニーというものの構造とコードの秘密だったのではないか。

 → ブライアンはフォー・フレッシュメンの熱烈なファン。
 しかし、ビーチ・ボーイズにフォー・フレッシュメン的要素が
感じられないのは、ブライアンによって彼らのコーラスを徹底的に研究し、
 それを進化させ、完全にオリジナルなものとしてビーチ・ボーイズの音楽に
 反映させていたからだ。…

ビートルズのジョンとポールは天才的であったがゆえに絶対的な自信があった。
ブライアンは天才であったがゆえに絶対的な自信に欠けていた。
これが「天才的な者」と「天才」の違いである。…

ブライアン・ウィルソンは孤軍奮闘。
(家庭内では日常的に家庭内暴力をふるう父親に苦しめられた)
1965年のツアー中に精神異常をきたしたブライアンは
ツアーから完全に身を引くことを決意し、スタジオにこもって
自分が理想とする音楽を追求することになる。
そしてドラッグとアルコールに耽溺するようになる。…

…天才(ブライアン)は何を考えているかわからない。
その周囲にいる人間(ビーチ・ボーイズ)はなにをしでかすかわからない。
これが長年にわたるビーチ・ボーイズ史の核心だ。…

…ブライアンは天才であるがゆえに何も考えていなかった。
その他のメンバーは天才ではなかったがゆえに何も考えていなかった。
従ってビーチ・ボーイズというグループは結局のところ何も考えていなかった。…

腐っても腐らなくてもブライアン・ウィルソン

ビーチ・ボーイズは危機感がなさすぎることによって長い暗黒時代に突入し、
しかし危機感が無かったことによってその暗黒時代も何とかやり過ごし、
何事もなかったようにステージに立っては「Fun Fun Fun」を歌うことが出来た。
不思議なグループである。…

確かにビーチ・ボーイズは偉大ではある。
ブライアンが天才であることも間違いは無い。
だがこの馬鹿げた曲(想い出のスマハマ(明らかに「砂浜」の間違い))を
レコーディングしたことも事実として受け止めなくてはならない。
辛いところだ。…

中山康樹の筆も絶好調。

近々ビーチ・ボーイズは来日するらしいが、
現在のビーチ・ボーイズ

ブライアン・ウィルソン組」
マイク・ラブ〜ブルース・ジョンストン組」
「アル・ジャーディン組」

の3つに分裂しており、来日するのは、
最もビーチ・ボーイズの音楽性から程遠い「マイク・ラブ組」らしい。


この本を読んだからといって、
すぐに熱烈なビーチ・ボーイズファンにはならないだろうが、
このバンドを新しい見方で見ることができるようにはなった、とはいえるだろう。
 
(備忘録)
・Why do fools fall in loveを ”Shut down vol.2 ”でカバ ー。

ビートルズも夢中になった(特にジョージ)マハリシ・ヨギに
 マイクもはまった(TM= Transcendental Meditation)。

@ 菅野よう子の’Mushroom Hunting’中の都市名の羅列は、
  ビーチ・ボーイズの”Holland”収録の’Funky Pretty’ の
  アイディアではないか?


  

ビーチ・ボーイズのすべて (エイ文庫)

ビーチ・ボーイズのすべて (エイ文庫)