『超ビートルズ入門』、中山康樹、音楽之友社、二〇〇二年、


中山康樹の音楽評論は、僕に希望を与えてくれる。


勉強の合間にちょこちょこ読もうと思っていたのだが、
あまりに面白いので通読してしまった。


この本は、ビートルズが「広く浅く」聴かれること
又は「狭く浅く」聴かれることにより、ビートルズの「音楽」が聴かれずに、
ビートルズ(特にジョン・レノン)が象徴的な存在になってしまっている状況に
対する危惧の念から書かれている。


前者はベスト盤『1』の大ヒットに象徴される「聖域」化であり、
後者は
「このヴァージョンは実はあのヴァージョンと
同じものとされていたが調査の結果云々」といった「考古学」化であり、
どちらもビートルズの音楽そのものを「聴いて」いないことは共通している
(ちなみに、若い世代にとって初めて出会うビートルズの曲が
 「ラヴ・ミードゥ」であることは大きな間違いであり大きな不幸である、
 とも述べられている)。


中山康樹は、あくまでビートルズを「天才的」音楽家・アレンジャー集団と捉え、
ビートルズの音楽の面白さを述べる。
ビートルズの演奏技術への疑問や、ジョージ・ハリソンの評価、
ジョン・レノンの思想に対する過大評価など、
ビートルズに関してよく耳にする風評についてもそれぞれ判断を下す。
これらは、その音楽そのものに基づいた考察であり、実に面白い。
『マイルスを聴け!』でも非常に感心したが、
氏の音楽評論は僕に非常に多くの示唆を与えてくれる。


中でも勉強になったのが、ビートルズのアルバムを聴く順番を記していることだ。
簡単にいってしまえば、ジャズにおけるマイルスと同じように、
ビートルズはたった7年間でロック史を初めから終りまで
通過してしまった存在であるため、どの時期を聴くかで大きく印象が変わってしまう。
不幸な出会いをしてしまったせいでビートルズの音楽を聴かなくなってしまう、
なんてことがないように、という配慮のため、全てのアルバムについて
解説が書かれているのだ。


さらに、各アルバムの最後に「補習」として一言が付け加えられているのだが、
これが面白い。

例えば、『HELP』。

* 職業作家集団と知るべし。
* ジョージ、あなどるなかれ。
* リンゴの歌は飛ばせ。

中山康樹は、もっともっと読まれていい。
しかし、この本が音楽之友社から出版されているのはオドロキだ。
世間に迎合したということか、中山康樹を認めたか。
恐らく両方の要素があると思う。
ちなみに、中山康樹は元スウィング・ジャーナル編集長。
また、この本の装丁は『1』を意識したものだろう。

超ビートルズ入門

超ビートルズ入門