『ハチミツとクローバー』⑦、羽海野チカ、集英社

いわゆる「王道の」少女マンガである。

最初は甘く見ていた。
絵はフツーの少女マンガ的だし、
話の筋もこっちは女二人の三角関係で、あっちは男二人の三角関係。
で、この女は昔の男を事故で失っていて今もその男のことを忘れられない…
…という感じで整理できてしまう。


しかし、読み進めていくうちに、冷静に距離を取れていない自分に気づく。
引きずり込まれていく、という意識はまるでないのに、
気づいてみるとこの世界にはまり込んでいる、という感覚。
不思議である。


ほれたはれたの話が中心であり、そのあたりに興味のない私にとって
話の筋はどうでもいいのだが、
いささかステレオタイプであることは否めないにしても、
キャラクターは魅力的だと思った。
知らない内に引きずり込まれてしまうことの理由は、
時折挟み込まれるこれらのキャラクターによるセンチメンタルなモノローグのせいなのかもしれない。


これを読もうと思ったきっかけは、私の好きな監督、
神山健治がこの作者と対談をしていたから。
その対談の中で、神山も羽海野も、
「キャラクターが当初の意図を越えて動き出した場合、
 当初の計画の方を変更して、物語を考え直す」という旨のことを語っていた。
要は、「物語はまず魅力的なキャラクターありき」ということだと思うが、
その点、このマンガは成功しているように思える。

ただ、この対談で羽海野が語っていた『ハチクロ』(と省略すらしい)の
もうひとつのテーマ、「天才と凡人」というテーマについては、
いまひとつ掘り下げられていない。
恐らく、主人公の竹本を「凡人」の代表者として、
そして竹本の片思いの相手であるはぐみを「天才」の代表者として、
二人の関係に絡めて語っていくのだろうが、これからの展開に期待したい。


⑥〜⑦は、主人公の竹本がなんと「自分探し」の旅として、
ふらっと自転車で北海道までいく話が続くのだが、
これもまだ踏み込みが浅いというか……。
個人的にこの手の話は大好きなので、もっと突っ込んで書いてくれると面白かった
(ちなみに、主人公が物語の中で成長していく小説である
 ビルドゥングス・ロマン、即ち「教養小説」ならぬ「教養マンガ」として
 傑作なのは細野不二彦の『ママ』(藤子不二雄の『マンガ道』はもちろん別格)。
 このマンガの面白いところは、細野不二彦自身、このマンガを通して
 大きく成長していることなのだが、それについては他の機会に書きたい)。

また、作者の羽海野チカは、キャラクター会社の勤務を経て、
同人誌からメジャーデビューしたらしい。
(「STUDIO VOICE, 2005, JUNE, 特集 最終コミックリスト200」より。
  この号はとても面白く、そして以後もお世話になりそうである)

ハチミツとクローバー 7 (クイーンズコミックス)

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