『A2』、森達也監督、2000年

『A』がオウム問題についての問題提起のフィルムだったとするならば、
『A2』はその途中経過の報告のフィルムである。

フィルムの内容は、1999年9月の布教を含めた対外的活動停止の休眠宣言の発表から、
2000年までの記録である。


このフィルムは、大きく分けて二つのパートに分けられる。

 一つは、森達也を冗談半分に「人権侵害の森」と呼び、
サリン散布の命令を受けたら実行する」と答える、
100人以上の信者が暮らす最大拠点群馬県藤岡市下栗須の責任者、
幹部ハギワラについてのパート。
 そしてもう一つは群馬県藤岡市宮本町にある小さな施設
(といっても普通の住宅だが)にたった二人で住む信者達のパートである。


後者から述べよう。
この施設に関して、「自治体による監視小屋」と、
もう一つその隣に「住民達がボランティアで監視テント」が設置された。

興味深いことに、この監視施設は住民の交流の場となっている。
当初はもちろん激しくもめたらしいが、今では記念写真を撮ったり、
住民と信者達が和んだりと、住民達も「この二人が脱会したら当然受け入れる」と語り、
信者二人は地域社会に溶け込んでいるかのように見える。


それは、住民同士の対立からテントを解体するときに、
信者も一緒に手伝うシーンに象徴的だ。
そして、テント解体後も住民は立ち寄ってくる。
密教の歴史や勉強を教えに来たりと住民は信者に接近し、
町を去るときにも住民は集まり、別れを惜しんでいるかのようだ。


さらにこの後には、この二人の信者の片方に
今は記者となった大学時代の友人が5年ぶりに訪れ、冷静な言葉が取り交わされる。
そこにはイマドキの若者らしい、ためらいがちな真面目な対話がカメラに収められる。

「もう、親が帰って来いって言ってもさ、家には帰ってないわけだよね?」
「当たり前じゃん、出家したんだから。帰ったら出家じゃないよ」

「真理ってさ……何なのかな」
「……魂の流転、そしてその赴く何代先を見越して鍛錬すべく修行することじゃないかな」
「うーん…………よくわからない」
「そりゃしょうがないよ、(お前は)一般の人なんだから」


そして、前者のハギワラについては、
オウム信者の抑圧された暴力性を表象する場面が撮影されている。
茨城県久慈郡大子町では、地元の不動産ブローカーが藤岡の信者達を
雇用したことにより町は大騒ぎとなっていた。
そこにハギワラが事態を収拾しに向かう。
そこで、彼は町の三役と話し合う。

「これ以上ここにいるつもりはない、別の場所に行く」
「できればすぐにでも出て行ってもらいたい。
 社会復帰するとあなたたちは言ってるが、私達はそれを
 全然信じてませんから」

 ……典型的なたらい回しの構図である。
ハギワラはこの言葉を聞いて頭の中の何かがキレてしまったらしく、
自分達が悪かったことを繰り返し、一方的に話し合いを打ち切ってしまう。


また、幹部一行は、長野県松本市の河野義之さん宅を訪ねる。
サリンを撒いたことを謝罪すれば自らの非を認めたことになるが、
しかし河野さんに対しては謝罪の気持ちがある。
このジレンマを解決できないままの訪問となったが、
このときの幹部の態度は学生が悪さをしたときの謝罪の域を出ない。
曖昧な態度と愛想笑いで煮え切らない態度。
しかし、それに対する河野さんの態度は極めて真摯である。


「話し合い」または「謝罪」のどちらも求めない、と語る河野氏は、
実行犯と現在の信者との違いを認め充分認めた上で、
「社会に対しての、謝罪というセレモニー」をしたらどうか、
と他人のように促す。

この教団側の一連の対応は、オウム信者が社会的に成熟していないことの
いい具体例としてあげつらわれても仕方がないだろう。


以下、フィルムの他の内容。

・広島刑務所から出所する上佑 → 横浜市黄金町。
 右翼の街宣車。(右翼幹部が、神主と巫女が取り仕切る神道の儀式を
 神妙に受ける貴重な映像もある)
・マスコミは、いまだに「警察報道」をそのまま報道しなければ
 ならない、という状況。
・30億7千万円の被害者賠償についての合意書が取り交わされた。


森達也は、オウムを「本質的な危険性を持っている」とみなす。
もちろんこれは全ての宗教集団が等しく持つものだが、
オウムからこの要素は全く薄まっていない、と森は考える。
そして、教団の名前を変えたり(オウム→アレーフ)、被害者に賠償をする、
というだけでは収拾がつかない、と述べる。


しかし、以上のことを前作の『A』の中心人物だった荒木浩に直接問いかけ、
そしてその姿を撮影してしまうほど、森自身困惑しているようにみえる。
自分も述べているように、森がオウムに何を求めているのかが分かっていないように
みえるのである。


おそらく、このフィルムはあらゆる意味で途中経過の報告なのだろう。
撮影済みの『A3』のDVD化(レンタル開始)を待ちたいと思う。  


A2 [DVD]

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